二十
その頃大野と沖矢は岸尾恵の自宅を訪れた。沖矢がインターフォンを押すと、玄関から岸尾恵が顔を覗かせた。
「刑事さん。岡本宇多先輩は見つかりましたか」
「見つかったのだよ。一連の事件の共犯者である岸尾恵さん」
岸尾恵は顔を歪ませる。
「私が犯人な訳がないでしょう。私は岡本宇多先輩を襲った犯人に襲われたから」
「あなたを襲ったのは共犯者の勝京介さんですよね。疑いを晴らすために襲わせたのではありませんか。そうだとしたら犯行の違いが説明できます。岡本宇多さんは何度も殴られていますが、あなたはたった一発殴られただけだった。その違いが意味しているのは、あなたに大怪我を負わせるわけにはいかないという共犯者の配慮があったのではありませんか。最も別の理由も隠されていると思いますが」
「その理由というのは何ですか」
「誘拐事件のアリバイを手に入れるためですね。岡本宇多さんが襲われた第一の暴行事件。なぜ岡本宇多さんは携帯電話で警察に通報しながら逃げなかったのか。その理由を実行犯の勝京介さんが知る術はないでしょう。逃げながら携帯で通報されたら暴行事件は未然に防がれてしまい計画が失敗するから。あなたは勝京介さんに今なら携帯電話が使えないから襲うチャンスだと伝えたのではないですか」
岸尾恵は息を飲む。大野の推理に続くように沖矢も推理を話しだした。
「誘拐事件の時もあなたは同じことを実行したのだよ。岡本宇多の退院パーティーをするからとカラオケに部員のメンバーを集め、退院が決まった岡本宇多をカラオケシャルにおびき出す。彼女をカラオケシャルに呼び出したことを実行犯の勝京介に伝え、彼女を誘拐してもらうという計画を考えたあなたは、アリバイを手に入れることができたのだよ」
岸尾恵は鼻で笑い、全ての罪を認めた。
「私はこの一連の事件を仕組んだ張本人。御坂妙子を中毒死させた麻薬密売グループが許せなかった。私と御坂妙子は一度剣を交えたことがありました。妙子の剣からは熱い魂を感じ、私はその勝負に負けた。たった一度の敗北を味わった私は血がにじむような努力をした。だけど彼女とは戦うことができなかった。3か月前に麻薬中毒で死亡したから。剣を交えて、彼女は麻薬に手を出すような人ではないと思った。四葉学院裏サイトで麻薬の売買をしている連中がいると知って、そいつらが御坂妙子を麻薬中毒死させたのではないかと疑った。私と同じことを考えていた勝京介さんと出会ってこの計画を実行しようと思ったという訳」
「暴行事件の目的は彼女を病院送りにして精密検査を受けさせるためですね。精密検査で麻薬の成分が検出されたらそれだけで計画が終わりますから」
岸尾恵は頷く。
「はい。彼女はただの麻薬の売人だったから成分は検出されなかったそうだから、誘拐事件に計画を変更しました。勝さんとの捜査で麻薬売買グループのメンバーは、櫻井幸一郎。岡本宇多。岡本郁太。潮岸昭宏の4人だと調べは付いていたから。潮岸昭宏は既に刑務所の中だから手を出せない。だから残りの3人を殺害しようという計画に変更しました。櫻井幸一郎と岡本宇多を射殺して、残った岡本郁太が絶望している所で撲殺する。これが計画だったけど、失敗だったみたいですね」
「麻薬中毒死させたあの4人を恨んでいることは分かりました。だからと言って殺人は許されません」
岸尾恵はそのまま覆面パトカーで連行された。監禁場所であるゴイドウビル二階で実行犯である勝京介が逮捕された。勝京介の所持していた手錠の鍵を使い、岡本宇多と木原は拘束から解放された。
その後の組織犯罪対策課の捜査で勝京介と岸尾恵が掴んだ真実が事実であることが証明され、麻薬取締法違反により、岡本親子は逮捕された。
こうして四葉学院から麻薬売買ルートが消えた。




