十九
午後3時。不審な男は黒いジャンバーのポケットから拳銃を取り出し、拘束され身動きが取れない岡本宇多に近づく。
そして男は岡本宇多の頭に銃口を近づける。岡本宇多は目を思い切り見開き恐怖に脅える。恐怖から出るうめき声を聞き不審な男はゴーグル越しにニヤリと笑った。
不審な男が拳銃の引き金を引こうとした時、監禁場所のドアが開いた。
「やめろ。岡本宇多を殺しても何も変わらない」
不審な男の背後にあるドアから合田警部と神津が入ってきた。不審な男は合田の声を聞き銃口を岡本宇多の頭から遠ざけ、ポケットに忍ばせたボイスチェンジャーを取り出す。
「馬鹿な。あの暗号がこんな短時間で解読できるはずがない」
不審な男は往生際悪くボイスチェンジャー越しに合田と会話しようとする。
「小細工は止めろ。電話で言っていたよな。逃げるつもりはないって。ボイスチェンジャーは使う必要はない。一連の事件の犯人である勝京介」
不審な男は全ての変装を解く。ゴーグルやマスクを外すと、そこには勝京介の素顔があった。
「もう一度聞きまする。なぜこの場所が分かったのか」
「あの暗号は簡単だった。極悪人が眠る場所。異国の戦場。道路の上で戦死した弟。失った命が生き返る。美人な魔女の悪魔の囁き。ルール違反な禁断の魔術。憎しみから蘇ったゾンビたち。火炎で世界を焼き尽くす。いずれあなたは私の虜になる。この暗号文をそれぞれ丸で区切り、行を変えながら書く。縦書きでも横書きでも構わない。その頭文字となったひらがなを順番に読んでいくと、ゴイドウビルニカイ。丁寧にゴイドウビルの二階が監禁場所だと教えてくれるということだ」
「まさかこんなに早く解読されるとは思わなかったなり」
「ああ。二階堂晴男には感謝しなくてはならないな」
「なぜ私が暗号文で監禁場所を伝えたのかは分かりまするか」
「警察の捜査を撹乱して岡本宇多を殺しやすくするため。そして本当の目的を隠すため。あなたはある目的を達成するために、暴行事件と誘拐事件を起こした。そして櫻井幸一郎を殺害した」
「その目的というのは何でござるか」
「あなたの目的は四葉学院に存在する麻薬売買ルートを支配する売人グループを特定すること。そのグループのメンバーが御坂妙子を薬物中毒にしたと考えたあなたはその人々に復讐したいと考えた」
「お見事。こうやって刑事さんを拉致してよかったと思いける。私が彼女を殺したという証人が欲しかったから」
勝京介の話を聞き、合田は首を横に振る。
「違うな。お前は犯罪計画に加担した共犯者を庇うために木原を拉致して、岡本宇多殺害の証人に仕立て上げようとした。そうじゃないと態々刑事を拉致した理由はないからな。
共犯者の所には今大野たちが向かっている」




