十八
午後2時。不審な男は気絶している木原と共に監禁場所に戻って来た。木原を床に寝かせ、手錠で手足を拘束すると、気絶していた木原は目を覚ました。
不審な男に捕まった木原の目には手足を拘束された岡本宇多が映る。岡本宇多の口にはガムテープが貼られていた。
椅子に座っている不審な男は岡本宇多の携帯電話に手を伸ばす。携帯電話の隣にはボイスチェンジャーが置かれている。不審な男はボイスチェンジャーの電源を入れ、岡本郁太に電話をかける。
「逃走劇を楽しませてくれた警察に岡本宇多の監禁場所を教えよう。私はその場所に潜伏している。逃げるつもりはないから暗号を解読して私を逮捕してほしい。極悪人が眠る場所。異国の戦場。道路の上で戦死した弟。失った命が生き返る。美人な魔女の悪魔の囁き。ルール違反な禁断の魔術。憎しみから蘇ったゾンビたち。火炎で世界を焼き尽くす。いずれあなたは私の虜になる」
警察に監禁場所を示した暗号を伝えた不審な男は一方的に電話を切る。その後でポケットに収められた拳銃を取り出す。
拳銃に銃弾を込めると不審な男は不気味に笑った。
その頃監禁場所を示した暗号文を聞かされた合田は岡本郁太の自宅で頭を抱えた。暗号文が解読できないからだ。
取っ掛かりすら見えない暗号に合田は考え込む。すると合田の元に北条から電話がかかってきた。
『北条です。例の金属バットの入手ルートが特定されました。あの金属バットは四葉学院野球部の倉庫から盗まれた物です。金属バットに付着したかすかな土の成分から特定されました。それと岡本宇多が拘束された誘拐の証拠写真ですが、被害者を車の後部座席に寝かした状態で撮影された物であることが判明しました。あの写真から監禁場所を特定することは難しいと思います』
「分かった」
合田は電話を切る。するとまた電話が鳴った。次の電話の相手は大野だ。
『誘拐事件発生当時のことが分かりました。被害者は岸尾恵が主催する退院パーティーに参加するためにカラオケシャルに向かったそうです。因みに岸尾恵には午前9時から午後2時まで他の部員と一緒にカラオケ店にいたためアリバイは完璧です。それと帯刀美咲。勝京介。野島創の3人の所在は分かりませんでした。おそらくあの3人の中に犯人がいると思います』
「やっぱりそうか。これで犯人が分かった。それでお前らに頼みがある」
合田は電話を切る。合田は一連の事件の真相が分かった。残るは監禁場所を示した暗号を解読するだけ。
合田が悩んでいるとテレビから2時間ドラマのCMが聞こえた。
『原作二階堂晴男。脚本テレサ・テリー。全国のミステリファン期待のコンビが贈る渾身のサスペンス。頭狩武者殺人事件。1月21日放送』
そのCMを聞き合田は閃いた。暗号を解読できた合田は部下たちに指示を与える。
「今から監禁場所に臨場する。東京湾第一コンビナートで待機している仲間たちを呼びもどして一斉に突入だ。拳銃を忘れるな。犯人は拳銃を所持しているからな」




