十五
その頃岡本宇多は監禁場所で意識を取り戻した。岡本宇多はソファーに仰向けで寝かされている。腕は後ろ手に手錠で拘束されているため自由に動かすことができない。足も手錠がかけられ拘束されている。
「助けて」
岡本宇多は思い切り叫ぶ。その叫び声に不審な男は気が付き、背後を振り返る。男はガムテープを手に持ち、岡本宇多が寝かされているソファーに向かい歩き出す。
ソファーの前で立ち止まると、しゃがみガムテープを引っ張った。
「やめて」
岡本宇多は思うように動けない手足を使ってじたばたとする。不審な男はそれを気にせずガムテープを岡本宇多の口に近づける。
不審な男は首を思い切り横に振っている岡本宇多の顔を左手で押さえつける。口にガムテープを張ろうとした時、岡本宇多は思い切り不審な男の右手に噛みついた。それにより不審な男の右手から極わずかな出血が現れた。
不審な男はそれでも躊躇わず岡本宇多の口にガムテープを張る。
こうして岡本宇多の口はガムテープで塞がれた。これにより岡本宇多は恐怖に脅えるうめき声しかだすことができなくなった。
午前10時40分。千間刑事部長は合田警部に電話をかけた。
「今櫻井幸一郎巡査部長が岡本郁太の自宅に向かっている。後10分ほどで到着するだろう」
『タイムリミットぎりぎりだな。なぜ犯人は交渉役に櫻井幸一郎巡査部長を指名してきたのかが気になる。だから櫻井幸一郎巡査部長が担当した事件を捜査した方がいい。大野と沖矢を渋谷署に向かわせてほしい』
「分かった。それで人員が足りないようなら所轄署から補充すればいい」
千間刑事部長が電話を切った5分後、岡本郁太の自宅に櫻井幸一郎巡査部長が到着した。
合田警部は櫻井幸一郎の到着を確認すると、すぐさま部下に指示を与える。
「交渉役の櫻井幸一郎が到着した。逆探知のスタンバイをしろ。大野と沖矢は渋谷署に向かい櫻井幸一郎巡査部長が捜査した事件の調書を読んで来い」
リビングが開き櫻井幸一郎が顔を覗かせた。
合田は櫻井に岡本郁太の携帯電話を渡す。
「事情は千間刑事部長から聞きました」
「早く電話しろ」
携帯電話を渡された櫻井は岡本宇多の携帯番号に電話する。電話は3コールで繋がった。
「もしもし。警視庁渋谷署捜査一課櫻井幸一郎です」
『櫻井さん本人だね。身代金一億円を要求する。国土交通省幹部なら90分以内に用意できるよね。約束を守ってくれた警察に感謝して、2時間後の午後1時。身代金を東京湾第一コンビナートの前に持ってきて。身代金の運び屋は櫻井さん。あなただから』
電話は一方的に切れた。逆探知は失敗。手がかりは無い。暴行犯と誘拐犯が同一犯であるという証拠もない。
誘拐犯との取引まで後2時間。取引開始までに事件の手がかりを掴み、一連の事件を解決する。合田たちは事件解決のため捜査を開始する。




