十四
午前9時30分。警視庁通信指令室に一本の電話がかかってきた。その電話は岡本郁太からの物で、内容は娘が誘拐されたという物だった。
通報を知った千間刑事部長は喜田参事官と合田警部を刑事部長室に呼び出す。
「岡本宇多が誘拐されたらしい。犯人は我々警察との交渉を望んでいる」
「その誘拐事件と暴行事件には関係があるのですか」
「まだ分からない。誘拐犯と暴行犯が同一人物である可能性もあるが、誘拐事件の捜査を捜査一課3係に任せる。交渉は大野に任せればいい」
捜査一課3係は千間刑事部長からの依頼で誘拐事件の捜査を担当することとなった。
午前9時50分。岡本郁太の自宅を家電量販店の店員に変装した合田たちが訪問した。自宅には岡本郁太が待機している。
合田たちは大きな段ボールに入れた逆探知機材を自宅に運び込む。
木原たちが機材のセッティングをしている中で岡本郁太は合田警部にあることを伝える。
「誘拐犯からの伝言だ。準備ができ次第岡本宇多の携帯電話に電話しろ。それと誘拐犯は誘拐の証拠として拘束した娘の写真をメールで送ってきた。そこから監禁場所を特定できないのか」
「その写真を警察に送付したら証拠写真から監禁場所を特定することができる。誘拐犯からの交渉は準備が整い次第行う」
「準備はどのくらいかかるのか。タイムリミットは午前10時30分まで。それまでに警察からの交渉が始まらなければ娘が殺されてしまう」
「大丈夫だ。遅くても午前10時20分には交渉が始まる」
午前10時15分。逆探知機材のセッティングが完了し、交渉を担当する大野が岡本郁太の携帯電話に手を伸ばした。
彼はその携帯電話を使い誘拐犯が指定した岡本宇多の携帯番号に電話する。電話は1コールで繋がった。
「警視庁の大野です。あなたが誘拐犯ですね」
『悪いけど交渉役として所轄の櫻井幸一郎巡査部長を指名したいんだよね。警視庁の大野さん。櫻井幸一郎巡査部長との交渉じゃないと要求は伝えられないな。午前11時まで待つから、櫻井幸一郎巡査部長を連れてきて。連れて来たらまた電話してね。タイムリミットまでに交渉が始まらなかったら娘を処刑するって岡本郁太に伝えてよ』
ボイスチェンジャーで声を変えた不気味な声は一方的に電話を切る。
「ダメです。誘拐犯は交渉役として櫻井幸一郎巡査部長を指名してきました。彼からの交渉じゃないと要求を伝えられない。午前11時までに櫻井幸一郎巡査部長が誘拐犯との交渉をしないと娘を処刑する。これが誘拐犯からの伝言です」
「逆探知はどうだ」
合田は逆探知機材を操作している木原たちの方向に振り向く。だが木原たちは首を横に振った。
「ダメです。電話が短すぎて逆探知できません」
合田は唇を噛み、千間刑事部長に電話をかける。




