十一
午前10時。四葉学院の前に多くのマスコミ関係者が集まった。四葉学院の生徒が2名襲われたことを受けて、犯人は四葉学院を恨んでいる人物ではないかと疑い始めたのだった。
木原と神津は甘い匂いに誘われたようなマスコミ関係者を横眼に野島創に会うため校舎へ向かう。
校舎内にある会議室では野島創が待っていた。
野島創とは初対面だった2人は警察手帳を見せ身分を明かす。2人が刑事だと知った野島創は椅子から立ち上がる。
「刑事さん。何とかしてもらえないか。あそこまでマスコミ関係者が押し寄せたら困ります」
野島創は木原たちに直談判するが、2人は首を横に振る。
「無理です。それにマスコミ関係者が集まったら何か不都合なことでもあるのですか。たとえば隠していることが公表されるリスクがあるとか」
「違う。マスコミ関係者に犯人が交じっているとしたら、生徒を守ることができないだろう。犯人はこの学院の生徒を無差別に襲っているそうだからな」
「本当に犯人は無差別に犯行を行っていると言えるのか。今の所この学院の剣道部の生徒しか襲われていないが」
「だけど第三の事件が起きたら、生徒数が減って学院存続の危機になるだろう」
「なぜ分かった。第二の事件が発生したと」
「電話だよ。事件発生当時岸尾恵の母親から学院の電話があったんだ。『娘が襲われた』ってな。調べたらすぐに分かることだ」
「因みにあなたは岸尾恵を恨んでいる人物に心当たりはありますか」
「一人もいない。岸尾恵は朝練を誰よりも真面目に取り組むくらい真面目な奴だ。あの真面目さは御坂妙子に匹敵する。因みにいじめの延長線の線もないな。この学院はいじめがないことで有名だから」
「最後にあなたは今日の午前6時40分頃どこで何をやっていましたか」
「教員室で仕事をしていた。その時間帯教員室には俺しかいなかったから証人はいないけどな」
木原と神津の2人は会議室から退室して、駐車場へと向かう。その道中2人は歩きながら話し合う。
「どう思う」
「不自然だと思いました。普通自分が顧問を担当する部活の部員が襲われたら取り乱すと思いますが、彼にはそれがなかった」
「精神的に強いということか。それとも彼が犯人かのどちらかが答えだろうな」
2人が駐車場に到着した丁度その頃木原の携帯電話に電話がかかってきた。その相手は警視庁でデスクワークをしている合田警部だ。
『面白いことが分かった。鑑識の結果今朝第二の事件の現場で発見された金属バットに付着していた血液は岡本宇多の物と一致した』
「指紋はどうですか」
『指紋は検出されなかったそうだ。指紋を拭き取られたような痕跡が検出された』
「それではその金属バットの流通ルートを調べたら犯人が分かるかもしれませんね」
『そう思って調べている所だ』
「それでは犯人に繋がる証拠が見つかったらまた連絡してください」
木原は電話を切る。現場に捨てられた凶器から犯人が特定されたら捜査はかなり進展する。その期待を抱きつつ2人は捜査活動を続ける。




