十
午前7時20分。沖矢はやっと現場に臨場することができた。遅すぎる到着に合田は腹を立てる。
「遅い。今まで何をやっていた」
「ある人物からの電話に対応していたのだよ」
「それは私用の電話ではないだろうな」
「いいえ。相手からかかってきたのだよ。それで捜査に進展はあるのか」
「犯人に繋がる遺留品が発見された。北条。詳しく説明してやれ」
合田たちの近くにいた北条は沖矢に血液が付着した金属バットを見せる。
「このバッドが現場から発見されました。詳しく調べてみないと分かりませんがおそらく岡本宇多さんの血液であると思います。これが凶器だとすると犯人の目的が理解できません」
「犯人はなぜ現場に凶器を捨てたのかということなのだね」
沖矢が指摘した謎に対して北条は頷く。一方合田は北条の話に続くようにもう一つの謎を指摘する。
「謎はもう一つある。犯人の行動が不可解な点だ。岡本宇多を襲った第一の事件で犯人は彼女を何度も暴行したのに対して、この岸尾恵が襲われた第二の事件では前頭部を一発殴っただけで犯人は逃走した。おかげで岸尾恵は近くの診療所で手当てを受けることになったがな」
「第二の事件は模倣犯の可能性が高いと思うのだよ」
「ああ。今木原と神津が診療所で手当てを受けている被害者に話を聞きに行っている。状況説明はこれで終わり。お前はこの近くで聞き込みに回っている大野と合流しろ」
「その前に浅野房栄公安調査庁長官から得た情報を報告するのだよ。私と公安調査庁長官の関係については触れないでほしいのだね。彼女から岡本宇多の父親岡本郁太が流星会幹部潮岸昭宏と密会していたらしいのだよ」
「確かその潮岸は渋谷署に自首して現在刑務所に服役している。これで一連の事件には流星会が絡んでいることが濃厚となったことか」
その頃木原と神津は岸尾恵が治療を受けている藤原診療所を訪れた。そこで2人は手当が終わった岸尾恵に話を聞く。
まず木原は岸尾恵に一枚のモンタージュ写真を見せた。
「あなたを襲ったのはこのような男ですか」
「はい。間違いありません」
「因みにあなたを襲った人物に心当たりはありませんか」
「いいえ。恨みを買うようなことをした覚えはありません」
岡本宇多と岸尾恵の共通点は四葉学院剣道部のみ。一通り被害者から話を聞くことができた2人は診療所を後にする。
「この事件。どう思います」
「四葉学院剣道部の部員を狙った女子高生無差別暴行事件の可能性も視野に入れた方がいいかもしれないな」




