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グループ  作者: 山本正純
前編 沈黙の暴行犯
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容疑者


岡本宇多おかもとうた  四葉学院高等部2年生 剣道部

岡本郁太おかもといくた  国土交通省幹部 宇多の父親


岸尾恵きしおめぐみ   四葉学院高等部1年生 剣道部

野島創のじまはじめ   四葉学院体育教師 剣道部監督

勝京介かつきょうすけ  剣道選手 四葉学院剣道部コーチ


帯刀美咲たてわきみさき  帯刀道場師範代


櫻井幸一郎さくらいこういちろう 警視庁捜渋谷署刑事課 巡査部長


 2013年1月14日。月曜日。午後7時。空は雲一つない快晴。月の満ち欠けの関係か、空にはうっすらと月が昇っている。翌日にはきれいな三日月が見えるころだろう。

 そんな天候の中で、四葉学院高等部二年生の岡本宇多おかもとうたは渋谷西公園のベンチに座った。

そこで彼女は後輩である岸尾恵きしおめぐみに電話を掛ける。

「恵ちゃん。明日の朝練は休むから。今日2時間くらい帯刀師範代と稽古して疲れているんだよ。そんな状態で朝練なんてやったら勉学に支障が出るでしょ。内の学校って完璧な文武両道を目指しているじゃない。だから授業中に寝るわけにはいかないの」

『分かりました。野島監督に伝えておきます。それと、本当の文武両道を目指すなら、朝練を休むことをお勧めしませんが』

「あっ。電池切れみたい。お説教はいいから、頼んだよ」


 岡本宇多は電話を切り、ベンチから立ち上がる。立ち上がった瞬間、岡本宇多の前を不審な男が通り過ぎた。不審な男の服装は黒いジャンバーに黒いニット帽。スキー用のゴーグルとマスクで顔が隠されている。身長は約160㎝。その不審な男は金属バッドを持って歩いている。

 その不審な男はゴーグル越しに岡本宇多を睨んだ。そして次の瞬間、男は金属バットを使い宇多を殴ろうとした。

 一撃を回避することができた宇多は男の顔を見る。だが顔は完全に隠されているため誰なのかが分からなかった。

 

 岡本宇多は竹刀を所持している。彼女の剣道の実力は東京大会を優勝するほどの物だった。だが男の腕力は凄まじい物。金属バットで殴られそうになって回避した時、宇多は凄まじい風圧を感じた。

 相手はかなりの腕力の持ち主。岡本宇多が竹刀で立ち向かっても、竹刀がすぐに壊れてしまいそうだ。


 この瞬間、岡本宇多の考えは決まった。それは、この公園の近くにある交番まで逃げること。先ほど携帯電話が電池切れを起こしたため、警察に通報しながら逃げることができないからだ。

 岡本宇多は男から逃げるため、公園内を全速力で走った。

不審な男は彼女を追いかけるかと思いきや、一歩も動こうとしない。そうこうしている内に不審な男の視界から、岡本宇多が消えた。

 この一本道を抜けたら交番が見える。宇多は最後の力を振り絞り走り出そうとする。

 しかしその彼女の前に先ほど彼女を襲った不審な男が現れた。男は一本道の出口を塞ぐように立っている。

 男は不気味に笑い、金属バットで彼女に殴りかかった。

「誰か助けて」

 

 岡本宇多の悲鳴が公園中に響く。悲鳴に驚いた不審者は一瞬動きが止まった。

 岡本宇多は疲労困憊する状態で来た道を引き返そうとするが、突然後頭部に強い衝撃を覚えた。不審な男は、岡本宇多が自分に背中を向けた隙を狙い、後頭部を金属バットで殴った。


 不審な男はうつ伏せに倒れた岡本宇多に近づき、彼女の両腕を掴む。男は宇多の両腕を上に引っ張り、宇多の上半身を起こさせる。

 上半身が起きると、宇多の両腕を離し、彼女を仰向けに寝かせる。

 

 それから男は金属バットを取り出し、彼女の体を殴っていく。仰向けにしたのは彼女の体を殴りやすくするため。

 

 男は何度も岡本宇多の体を殴っていく。特に頭は集中的に殴った。血で彼女のきれいな顔が染まるほどに。

 岡本宇多は男の暴行に耐えることしかできなかった。体は男に殴られたことによって起きた脳震盪で動かない。意識が朦朧とする中で彼女は終わりが見えない暴力に耐えようとする。このまま男に撲殺されてしまうのではないかという恐怖を彼女が襲う。

 意識は失ったとしても男は暴行を続けるだろうと岡本宇多は思った。宇多の体は男に殴られるたびに血で汚れていく。

「あなたは誰。なぜ私を殴るの」

 岡本宇多は弱弱しい声で男に問う。だが男は質問に答えようとしない。

 

 不審な男は岡本宇多の頭に向かって金属バットを振り下ろそうとする。その時懐中電灯で一人の警察官が辺りを照らした。そこで刑事は暴行事件の現場を目撃する。


「警視庁渋谷署刑事課の櫻井幸一郎さくらいこういちろうです。そこで何をやっているのですか。署で詳しい話を聞かせてもらおうかな」


 櫻井は警察手帳を暴行犯に見せる。暴行犯は舌打ちをすると、岡本宇多をその場に残して逃走した。岡本宇多の血液が付着した金属バットは犯人が所持している。

 櫻井幸一郎は暴行犯の後を追うため走り出す。その最中櫻井は無線で周りにいる刑事たちに連絡を行った。

「こちら警視庁渋谷署刑事課櫻井。渋谷西公園で暴行事件が発生。被害者は女子高生と思われる。被害者は交番に向かう一本道に倒れている。至急保護を頼む。犯人は公園内を走って逃走中。現在私は犯人を追跡している。至急検問を行ってほしい」

 

 櫻井は無線を切った。だが、彼の視界からは暴行犯が消えた。櫻井は走りながら無線で仲間の刑事に連絡をした。10秒前までは確かに櫻井の前で暴行犯が走っていた。

 その後渋谷署管内の道路で検問を行ったが暴行犯らしき人物は現れなかった。渋谷署管内に潜伏している可能性を考慮して重点的なパトロールを行ったが、暴行犯は発見されなかった。暴行犯は夜の公園で忽然と姿を消した。

 

それから岡本宇多は櫻井が要請した刑事たちに保護され、救急車で東京警察病院に運ばれた。


 この時刑事たちは知らなかった。この女子高生暴行事件の裏には謎の組織による陰謀が隠されていることを。


今回は初回ということで、いつもより文量を長くしてみました。次回からは通常運行に戻します。

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