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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
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原因探し

 一階から二階まで吹き抜けで、シャンデリアが埃を被っている。


 掃除されていない床。左右に階段があり手すりは金色だがくすむ。


「ここを引っ越して既に五年は経っていますから、すっかり汚れが目立つようになりました」


 最初は客室だった所へ連れられた。広い上すっからかんで寂しい。


「引っ越す時に古い家具の大半は処分して、この邸に残る物は一つもありません」


 言葉に潜む孤独感が、虹にはひしひしと感じられる。


 亡くなった両親を思っているのか。乃至は違うのか。人心を読む事は難しい。


 部屋数は20以上あるみたいで、さすが邸と言いたい。


 原因を探す為一ずつ見て回り、邸に住んでいた賢治は空っぽでも、どこが何の部屋か頭に残っている。


 11回目、久慈が苛々して腕を組む。見てまた見ての繰り返しが無意味だと結論づけ、恐ろしく仏頂面だ。


 嫌になる気持ちは分かる。誰でも同じ繰り返しは飽き飽きしてくる。


「あの、久慈さんはどうかしたのでしょうか」


 ただならぬ雰囲気を悟って尋ねた。


「大丈夫です。どうもしていません」


 この状況はまさしく触らぬ神に祟りなしだ。


 今の所収穫はない。簡単に原因を発見できると考えておらず、怪奇現象が起こるからには理由がある。


 どちらか分かればきっと解決に繋がる。


 立ち尽くす賢治の目が変わって、ぼんやりと感慨深げに、室内を視界に入れていた。


「ここは両親の寝室だったんです。お恥ずかしながら私は恐がりな子供でして、父か母のベッドに潜り込み、度々一緒に寝たんです」


「いいですよね。一緒に入ると暖かくて」


 虹も両親の布団で眠った事があり、安心感に満たされ、とても居心地がよかった。親という存在はかけがえのない。


 胸が微かに痛む訳は口論になった事を思い出すから。分かり合えなくてもいいと諦めているから。


 罪悪感に気づかぬ振りをし蓋をする。


 浴室へ入りまず脱衣所の広さに驚き、今度は浴槽の縦幅と横幅に驚く。長い。


「一度でいいから、こんなお風呂に入ってみたい」


「入ればいいじゃないか。気分だけ味わえるぞ」


「そういう意味じゃなくて……。遠慮しておきます」


 少女が考える想像は綺麗な湯が沸いたお風呂。埃が積もった浴槽に入る勇気はない。


『気持ちいい?』


『もっと優しく泡立てろ』


『やってるよ』


 六歳くらいの由真が白い狐を洗っている。しかも尻尾は五本ある。五尾ごびだった。


 すっと過去が消えた。能力の気紛れさ、足り無さを人知れず省みた。


 天地間に存在する物、自然や空間も含まれ、物と場所に強く残る誰かの思念や感情が発端となり、過去が見える。


『過去見は集中力さえ続けばどうにかなる』


 印西がそう言っていた。


 己の能力を使い熟せず、立派な陰陽師への道は開けない。


 五尾が原因と判断するには早く根拠もない。


 賢治に案内され広間に来た。


 二回も過去を見た。重要な意味はなくても、邸に残る思い出が解決の糸口になる可能性はあった。


 深呼吸して集中力を高め、過去見に臨む。


 なかなか見えてこず成功を願い粘る。


「詞蔵さん。次、行き……」


「待て」


 久慈の威圧感ありありの声に男が身を竦める。


 意図を察した相棒と目を合わせ切り替えた。


 家具が配置され、ソファーに二人座る。


『母様、ご本を読んで』


『はいはい。どれを読んで欲しいの』


『全部』


『まぁ、欲張りね』


 母も由真も笑う。幸せ一杯だ。


 異なる思い出に変わった。


 クレヨンで夢中に絵を描いている。数本散らばっていた。


『何を描いているのかな』


『ダメ、父様。まだ見ちゃ!』


 剥くれて腕と体で隠す。


『ごめん。ごめん。気になって』


 男の顔に見覚えがある。あれは若い頃の賢治だ。


『完成したら見せてあげるね。それまで待ってて』


『楽しみだな』


 真剣に描き続け漸く完成した。カラフルな絵を掲げて誇らしげに見せる。


『大好きな父様の顔。お花も可愛いでしょう』


『上手だ。将来は画家になれるぞ』


『本当?なれるかな』


 照れてはにかむ。


 これで一つ明らかになった。依頼主には妻がいて娘もいる。


「この邸に何人で住んでいましたか」


「私と妻と娘、メイド6名、料理人3名の計12名です」


 メイドに料理人。ドラマみたいだ。


 銀色の髪の青年は料理人か。疑問が渦巻く。


 広間を出た途端、廊下がぴかぴかになり、此方に向けて男の子が走る。擦り抜けた。


『そんなに急がなくても海は逃げませんよ』

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