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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
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怪奇現象

「しもは雨冠に木と目で、まつが木に公。けんは賢い、じが治めるです」


「これで間違いはありませんか」


 書いた字を確認して貰う。賢治が頷いた。


 たとえどんな依頼でも依頼主の名前と内容は、書き記すように心がけた。一期一会の縁を貴重にしたい為だ。


「失礼します」


 全然心が籠もっておらず完全な棒読み。


 引き戸が開き、お盆に茶を載せやって来た。雑に置く。中身が揺れた。


「有り難う御座います」


 恐れつつもお礼を述べた。なんていい人!


 あれだが進歩した。失礼しますを言うようになり、お茶を持って来る時間が早くなった。置き方の問題は目を瞑って欲しい。


 虹がやんわりと指摘して徐々に改善され、まだまだ悪い所を改める必要がある。


 以前、彼の態度が原因で客を怒らせ、帰らせてしまった事があった。


 口では謝らず内心は反省していた。それが少女には分かったので、厳しさに欠けるが軽く咎めた。


「相棒の久慈です」


 紹介すると軽く頭を下げた。明らかに成長した。


「早速、依頼内容をお話し下さい」


 間を持たせてから徐に話し出す。


「怪奇現象を止めて欲しいのです」


 漸う陰陽師の本業らしい仕事がきた。内心歓喜する虹。


「自宅ですか」


「いえ、数年前まで住んでいた古い邸です」


 邸と聞き付喪神が口の端を吊り上げる。金蔓になりそうだからだ。


「業者が取り壊そうとする度に、不可解な現象が起こるそうです。地面が揺れたり、突然雷雨に見舞われたり、『立ち去れ』と言う男性の声が聞こえたり。最近は熱で魘される人が、続出している事を知りました」


 地震や雷雨に加えて、男性の声も不自然な熱も全ておかしい。何かある。


「皆、怖がって一切取り壊しは進まず、現在は中断しております。今度、怪奇現象が起これば仕事は受けないと言われました。こんな経験初めてで誰に頼っていいか分からず、会社でエリートな人達が働く何でも屋の存在を小耳に挟み、休日を利用し参った次第です」


 間違った情報が人から人へ伝わっている。


 やっぱり何でも屋なんだ……。陰陽屋なのに。それに自分はエリートとは程遠い。


「どうにかなりますか?」


 縋るような瞳で賢治が見つめる。


「無責任な事は言えませんが最善を尽くします。日にちを要する可能性があります。それでも宜しいでしょうか」


「はい、お願いします」


 話を聞いただけでは幽霊か妖か判断し兼ねる。いずれにしろ調べれば真実に辿り着けるはず。


「よかったらお茶を飲んで下さい」


「戴きます」


 遠慮して彼はお茶を飲んでいなかった。勧められると飲みやすい。


「これから邸を見に行く事はできますか」


「できます。それでは、私の車にお乗り下さい」


 ささと依頼内容を書き、手帳を閉じた。ザッシー、ほわとわんに留守番を頼まなくちゃ。


 札を〝開業〟から〝留守〟にひっくり返し、虹と久慈は後部座席に乗り込んだ。



 始めは店や家が近辺に建つ道路を走っていた。段々、田舎道に入り田畑が多くなる。のどかだ。


 二時間ぐらいかかり、そして到着した。


「大きな門……」


 この世には常識を超えた門があるんだ。見上げて首が痛くなる。


 道はまっすぐあり周辺には芝生、木が生える。手入れはされていない。


 歩いて不意に虹の目に映る景色が変わった。


 木に花が咲き芝生も手入れが行き届く。


『いくよ』


 四歳くらいの女の子がボールを蹴った。風の所為で思わぬ方向に逸れる。


『下手くそ』


 銀色の髪、青年の顔は男にも拘わらず綺麗だ。


『真由はもっと上手く蹴れるもん。今のは風さんの悪戯よ』


 ボール遊びをしている。


「虹」


 肩に重みを感じて意識が現実に引き戻される。


「過去を見ていたの」


 女の子と青年は誰だろう。


「お前のへんてこ能力か」


 幼少期、妖刀に触れたきっかけで、薙の過去を目にした。


 驚愕する間もなく次々と場面が変わり、気がついた時には縁側で横になっており、混乱に陥った。


 印西に突然倒れたと聞かされ、黒水晶を振るい妖と戦う男の事を伝えた。


『お前はたぶん詞蔵薙の過去を目にしたんだ。一気に見すぎて精神を消耗し意識を失った。どうやら過去見かこみの能力が開花したようだ』


 祖父は生まれながらその能力を持ち、思いのまま使える。依頼解決に役立てた。


 それに比べ虹は意図せず、過去見を発動させてしまう。


「へんてこ能力じゃなくて過去見」


「どっちでもいい」


 洋風な邸は白く黒い屋根、アーチ型の窓が並ぶ。近くから見ると雨風に晒された外装は汚れている。


「霜松さんが建てたのですか」


 邸を建てるお金がどれ程かかったか。一般人には想像もつかない。


「違います。今は亡き父です。私は生まれた時から両親と邸に住んでおりました」


 茶色の扉に鍵を差し入れ開けた。


「どうぞ、私が案内します。怪奇現象の原因を突き止めて下さい」


 賢治が中へ促す。二人は足を踏み入れた。

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