依頼主の登場
「どうあがいても未熟は未熟だ。時間をかけ立派になっていけばいい。そうすれば本業の依頼も嫌になる程くる」
ほわとわんを突つきながら話した。
「久慈の言う通りくる」
ちょこんと正座して同じ意思を表す。
「少しずつ立派になるね」
自分のペースで経験を積み、高みを目指し誇れる人生にしていく。少女の目標になった。
湯飲みを用意した。ザッシーの湯飲みは小さめを探し買った。ほわとわんは醤油の小皿が飲み物入れ代わりだ。それがちょうどいい。
お茶が沸き水蒸気は上がっていた。火を消し冷めるまで待つ。
「まだか」
「沸いたばかりだから冷ましているの」
やかんの蓋を開けると緑茶の香りが匂う。
「そんなに早く苺大福が食べたいんだ」
「苺大福は餡の中に苺が丸ごとある。美味い餅菓子だ」
虹が作る料理は普通かまあまあしか言わない。餅菓子に負けているのか。そうなのか。
尋ねてショックを受けるのだけは嫌だ。
「湯飲みに茶を注げ」
「うん」
まず久慈の湯飲みに注ぎ、次にザッシー、ほわとわんの小皿へ少し垂らし、最後は自分の番だ。
パックを開けて皆に配った。
毛玉の妖には手がない為、包みを開けてあげる。
「君達は半分こね」
「きゅー」
「きゅ」
有り難うと伝えているようだ。
「どう致しまして」
指先で毛を撫でる。
「痛みは引いた?」
その問いには答えず濡れたハンカチを渡してくる。
「よかったね」
「……」
受け取って溶けた氷を流す。
少女は二階に上がりベランダに出て、ハンカチを広げる。洗濯挟みで留めた。
下は細い道。偶に通って行く人が見える。
「あれ、皆まだ食べていないの」
「虹、いなかった」
「椅子に座れ」
待っててくれたのだ。嬉しくなる。
「食べよう」
同じ瞬間にほわ、わんはかじりついた。
和む顔つきの久慈は苺大福を味わう。彼にとって至福だ。
ザッシーは器用な手つきで開けゆっくり食べる。
餅は桃色、もちもちして伸び餡は程よい甘さ。苺が酸っぱい。
「顔が歪んでるぞ」
「苺が凄く酸っぱかった」
「俺のは甘かった」
「いいなぁ」
舌のやけどに気をつけ緑茶を飲む。苦いが美味しい。
「相変わらずマイペースだね」
最初この言葉を言った時は首を傾げ、意味を聞いてきた。
まだ半分にも到達しておらずもぐもぐさせる。
「私、マイペース」
座敷童子には性別がある。因みにザッシーは女の子だ。
「茶のおかわり注げ」
飛び跳ねるほわとわんも付喪神と同じでおかわりを欲しがった。
「久慈には手があるのに」
「お前が入れろ」
「はいはい」
顎で使れる事が多い。不服に思うものの慣れた。
今日はどうやって過ごそうか。
頭を悩ませ、近くで車の停車する音が耳に入る。
「お客さんかな」
期待に胸が高鳴った。
鈴がリンリンと澄んだ音色を奏でる。引き戸が開いたのだ。
「済みません。どなたかいませんか」
男性の声だった。
「少々お待ち下さい」
大きな声で答えた。
入口には痩せ型で気弱そうな人が立っていた。
「詞蔵陰陽屋へようこそ、いらっしゃいました。此方へどうぞ」
「はい」
スリッパを取って靴箱に履き物を入れた。
応接室の座敷に案内する。
「私は詞蔵虹と申します。貴方様の名前を教えて頂けませんか」
手帳を取り出す。ボールペンを持った。
「霜松賢治と申します」
「字を教えて下さい」