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「起こすのはお前の役目だ」
羽前と暮らしてから虹が毎回起こしている。対策を講じて目覚まし時計を買った。が、効果はなかった。ベルを止めて二度寝をするからだ。
「朝食ができたら起こすよ。それまで寝させてあげる」
使う茶碗や箸をテーブルに並べた。
「早く食べたいな。お味噌汁」
ゆったりできる時間が好ましい。一日が始まった。
巡って朝。蒼が来て三日がたった。少しずつ確実に大きくなっていく。
手で持つと重くなっている。
「いつ蒼は蛹になれるのかな」
じっと見つめて黒い目が見つめ返す。虹の髪に興味を持つ。
「髪がどうかしたの」
掬って毛先に吸いつく。
「ダメ。食べられないよ」
「どうした」
羽前がガラス戸を開けた。
「助けてぇ。羽前!」
吸いつく力が強い為、引き抜きたいが引き抜けず痛い。
「やめてやれ。家来が痛がっている」
ぴたりと吸いつくのをやめた。
「フッ」
五尾は吹き出す。
「何?」
指を差されてくしゃくしゃに絡まった髪に気づく。
ほどけない。余計に絡まった。
「あれ、おかしいなぁ。うぅ、悪化しちゃった……」
「不器用だな。我が何とかしてやろう」
顔を近づけ器用な手先で容易にほどいてしまった。
「凄い。手先が器用なんだね」
「前々から思っていたんだが、そなたの毛先は金色っぽいな」
「母親譲りなの」
「綺麗だ」
唐突に誉められて胸が高鳴る。こういう事には慣れない。
行き成り額に口づけした。
驚いて瞬きまで止まる。
「う、ぜん」
「家来が主に逆らわぬようにするまじないだ。次は頬にしてやろう」
必死に両手で羽前を押さえた。
「何だ。この手は。まじないが効いていないではないか」
眉間に不満を表す。
林檎みたいに真っ赤になったであろう頬を俯き隠した。体が火照る。
からかい反応を面白がっているだけだ。
気配を感じて久慈が立っていた。物凄く険しい顔つきで不機嫌である。
「いたのか、付喪神」
泰然自若と涼しい顔つきの羽前。
「最初から知っていてよく言えるな」
手の平から黒水晶を取り出し構える。ぴりぴりして危険な空気だ。
妖刀を振り回されては困る。
「ここは家の中だよ。戦闘禁止!」
「外ならいいのか」
「外も禁止!」
刀を仕舞わせた。睨み合いが勃発する。
「お前のハンカチを出せ」
渡すとごしごし音が、聞こえてきそうなくらい、力を入れて額をこする。
「久慈、やりすぎ。皮膚がひりひりしてきた」
鏡で見たら確実に赤くなっている。
「拭いてやったんだ。有り難く思え」
ハンカチを返して隣に腰掛けた。
「がさつな付喪神だな」
「がさつで悪かったな。クソ狐、少しは自分で起きる努力をしたらどうだ」
「眠いのは致し方あるまい。家来が我を起こせば済む」
「おしまい」
強制的に終わらせた。喧嘩する程仲がいいという言葉に、信憑性があるか疑問だ。
揃って眉の形を歪め、不快そうだ。
新聞についている広告は以前より、確かめるようになった。安価な商品が一目で分かる。
食費の他に電気、ガス、水道の節約を心がけ、日に日に成果は現れた。
不要な広告を折って三つに破った。白い裏に杏仁豆腐、プリン、ゼリーとボールペンで書いた。
「蒼から見て左は杏仁豆腐、真ん中がプリン、右はゼリーだよ。どれか選んで」
言った順番に紙が並ぶ。蒼は考える。
「此奴は食べ物の種類を理解しているのか」
「私が教えたから理解しているよ」
暫し固まっていた。前にさっと進み、プリンの紙を選んだ。
見た目は芋虫なのに動きが速いとギャップがある。普段はのろのろ動いている時が多い。




