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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
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相反する思い

 潔く帰れば陰陽屋を諦める事になる。


「貴方の為を思って言ってるのよ。さあ、帰りましょう」


「……」


 母が手首を掴んで無理やり引っ張った。抗い振り払う。


「今は珍しがってお客が来るだけ。都合よく簡単にいかない。皆から次第に忘れられて終的に失敗するのよ。辛い思いもするのよ」


「私は詞蔵陰陽屋を開く夢を叶えた。たとえ都合よくいかなくても、失敗してもやり続ける」


「虹、お願いだから私の言う事を聞いて」


 娘が逆らわずに従えば満足なのだ。私の心はどうでもいいんだ。


 苦い思いが胸中に広がる。


「放っておいて――!」


 きつい口調で言い放ち唇を引き結ぶ。身を翻して走った。


「虹!!」


 振り返らなかった。遠くに行きたい。姿が見えなくなる所まで……。


 また逃げた。立ち向かわず逃げてしまった。


 心が苦しくて少女は弱い己を責めた。



 虹の背中が小さくなった。依頼主の家は逆方向だ。


 久慈は溜息をつき、怒りが滲む亜美を見遣る。


「連れ戻しに来ても無駄だぞ」


「そのようね」


「俺が前に教えた通り、彼奴は彼奴なりにやっている。不確かな判断で決めつけるな。陰陽屋をやめさせる考えは捨てろ」


「私はあの子の将来が不安なの。親ならやめさせたいと願うのは当然よ」


 陰陽師の真似事をやる娘を快く思っていなかった。


 印西と仲が悪い訳ではなく、距離を置いてつき合っていた。


 理由は陰陽師という存在や役割を理解していないからだ。


 並の人間には幽霊も妖も不可視、故に認めない。そんなものを相手にするなんて頭がおかしい。


「虹は何でも言う事を聞くお前の人形じゃない」


 亜美がはっとなり感情を消して歩き去った。


 人の感情は複雑で厄介。付喪神でも分かる。


 解決には時間がかかりそうだ。


 早足で久慈は気配の元へ進む。世話が焼ける。


 路地裏に立ち尽くす虹がいる。悲しそうで苦しそうにも見えた。


 近づく存在に気づき、不自然な笑みを作った。


「まさかお母さんが来るとは思わなかった。どうせ分かり合えないなら、放っておいてくれればいいのに」


「お前には内緒だったが、陰陽屋を開店させてから、俺は亜美と吉秀に三回会いに行った」


「何で――」


「全く連絡をしなかっただろ。お前がどんな依頼をやって、どう暮らしているか、わざわざ伝えただけだ」


「二人は私の事を心配していた?」


 手を重ねて握る。俯き加減に尋ねた。


「親が子を心配しなければ親子じゃない。亜美の気持ちも考えてやれ」


「せっかく夢を叶えたのに、陰陽屋をやめたら私は生きる意味を無くしてしまう。お母さんが無理やり手を引いた時、怖かったの。連れ戻されたら終わりだと思った。だから、逃げた。向き合えなかった」


 数粒の涙が路面に落ちる。跡を残した。


「自分を責めるな」


 虹は追い込みすぎる所がある。そんな彼女の扱いによく困った。


「だって、向き合うって決めたんだよ。逃げてそれができなかった」


「泣くな」


 頭を撫でて久慈は指先で涙を拭う。


 顔が真っ赤になり、「私、涙くらい拭えるよ」とハンカチを取り出した。


 目が合って即刻逸らされる。


「別に焦らなくてもいいだろ。お前の心が準備できたら、今度こそ逃げずに向き合え。俺との約束だ」


「うん。約束する。次は頑張るね」


 泣き顔が漸く笑顔になった。


 向日葵みたいに綺麗だ。陽光みたいに暖かい。


「久慈?」


 視線の意味を計り兼ねる。


 笑顔に見惚れていたとは、口が裂けても言えず黙る。


 不可解な様子を訝しむ。あくまで平静を装った。


「今、何時だ?」


「3時50分……。どうしよう。四時までに依頼主の家に行けない」


「瞬移の数珠があるだろ」


「ダメ。まだ霊力が」


 木に相当な陽力を注ぎ、それに伴い、霊力も使ったのだ。その所為で回復が遅い。


 付喪神は少女を軽々と肩に担いだ。


「ちょっと!?」


 状況が理解できず虹は戸惑い慌てる。


「屋根を使って走れば間に合う」


「誰かに見られたら大変だよ」


「一応気をつける。が、仮に見られても人は信じ難い光景を認めない。猫か鳥だと勘違いする」


「やめようよ」


「間に合わなくてよければやめる」


 数秒後――。


「お願いします」


 小さな声が耳に伝わった。


「落ちないようにしろ」

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