夜蒼虫
「家来はどっちに行きたい」
「虹が決めろ」
「ええと」
凄みを利かせた睨みに少女は逃げたくなる。
「左と右で意見が割れたから、間をとってこの辺りにしよう」
揃って無言だったが、異を唱えなかった。
どの木も色は正常。病気になっていると考えにくい。
枯れ木が生える所は疎らで、共通点は精気を失った所。自然の条件、寿命で植物は枯れ、精気が大事な役割を担う。理由は生命活動の根源だからだ。
一向に原因不明のまま。ただ謎が深まる。
葉、枝、幹をひたすら見続けるのは、根気が必要で大変だった。
「何か見つけた?」
二人は首を振った。
落胆して肩を下ろす。簡単には見つからないか。
「木以外に原因があるはずだ。お前の過去見を使えば、何かしらの原因が発覚するだろ」
「やってみる」
久慈に返答してから集中力を高め、一番初めに枯れた木と向かい合う。
やがて見えてきた。
日が昇って周囲が次第に明るくなる。朝だ。
虹は木の過去を目にしている。
太陽の位置が変わり昼になった。葉が一枚枯れ、少しずつその枚数が増えていく。
夕方になる頃には半分精気を失った。
夜になり、次の朝――。なんと全て枯れていた。
原因は何?
過去が薄れ消えていく。焦燥感に駆られた。
どこにあるの。
諦めず目線を至る箇所へ走らせる。草むらにいた。よく確かめると青い芋虫だ。
完全に消え去った。
邸の一件以来、上手く使えるようになった。
「収穫はあったか」
久慈の声に深く頷いた。
「夜蒼虫が原因だと思う」
「夜蒼蝶の幼虫か」
実際見たのは初めてだ。印西から話を聞き存在を知った。
植物の精気を幼虫の時に吸い、蛹を経て成虫となる。
真夜中に蛹から成虫が出て、羽は蒼く輝きを放ち美しいらしい。
幼少期、虹が見てみたいと言い、祖父を困らせた。何故なら夜蒼蝶は簡単に出会える、妖でなく珍しいからだ。
生命活動の根源を奪われた。故に木は枯れてしまった。
「精気を吸う事は致し方あるまい。蛹になるまで吸い続ける。夜蒼蝶の成長に必要だ」
「分かっているけど、このままだと高岸さんの森が――」
「退治するのか」
少女は羽前に首を振った。
「一先ず発見したら保護したい」
「保護した後は?」
「まだ考えは特に……」
悪意が無くても夜蒼虫は、どんどん木を枯らしてしまう。それを避ける必要がある。
「しっかり考えるつもりだよ」
先は不明瞭だが早急な発見を迫られている。
「家来、あちら側の方向から妖の気配を感じるぞ」
「夜蒼虫かな」
「まだ分からん」
足を踏み出す。少女と付喪神もついて行く。
暫く進み、鳥の鳴き声が響いて静かになった。
木漏れ日が差し込む。名を知らぬ白い花木は美しい。
突然、立ち止まる。
「気配が近い」
「いたぞ」
久慈の指差す先に夜蒼虫がいた。
虹が過去見で見た時は、小指二本くらいだった。現在は片手にのるくらいの大きさ。精気を吸い、成長したのだ。
「どうやって捕まえよう」
「素手しかないだろ。俺は嫌だぞ」
「同じく我もだ」
二人の意見が初めて合った。どんなに仲が悪くても意見は合う。
「私、頑張って捕まえるよ」
「おなごであるのに、かような妖を触れるのか」
「小さい頃、虫と触れ合っていたから割と平気」
幸い此方の存在には気づいていない。
そっと近づく。気を抜かず足音に注意を払う。
大丈夫。このままいけば……。
バッキと音が鳴った。枝を踏み存在に気づかれる。
自分の失敗を悔やんでも遅い。
物凄い速さで夜蒼虫が逃げた。
「待って!」




