枯れた木
佐里の手を合わせた懇願に結局受け取ってしまう。
最後に謝意を込め、礼をして親子は去った。
「人の子に感謝されるのも中々いいものだな」
「じゃあ、私の陰陽屋を手伝ってくれる?」
「気が向いたらだ」
羽前は紙袋から箱を取り出し、包みを破る。中身は高級そうなクッキーだった。
「紅茶をいれろ」
「夕食前だよ。明日、食べよう」
「今がいい」
「虹の言う事を聞け」
クッキーの箱を久慈が奪った。
「返せ。極悪付喪神」
「俺を極悪扱いするな。クソ狐」
「愚弄は聞き流せん」
「な・か・よ・く」
間に入る二人の宥め役にもすっかり慣れた。本当は慣れたくなかった。
「皆で夕食を作ろうよ」
「誰が此奴となんか作るか」
「断固として拒否する」
「作るの!」
ここで引いたら負けだ。少々強引でも仲良くなるきっかけをつくる。
虹は付喪神と五尾の腕を掴み、決意を固めた。
文句を言いながら何とか夕食が完成した。仲は依然と同じ調子だった。
次の朝、依頼主の元へ向かった。移動手段は瞬移の数珠である。
通常通り久慈と気まぐれを起こして羽前がついて来た。
依頼主の名前は高岸啓太。白髪頭で肌は日に焼けている。第一印象から元気な人だった。
彼は森の管理者だ。最近、何本も木が枯れ始め、原因は分かっていない。その原因を突き止めて欲しいそうだ。
「わしの森では木の実やキノコが採れる。季節を通して様々な木の花と草花も咲く。秋には団栗、松毬が落ちてくる。毎年桜は満開じゃ」
「私、桜が大好きです」
「そうか。来年、花見をしにおいで」
森は広大で太い木がたくさん生えていた。樹齢が百年以上、経つものも多いと話した。
森の中は精気に満ち、虹は肌に感じた。
「枯れ始めたのは極最近でね。全く以て原因が不明なんだよ」
森の管理は数人で行う。主に枝切りと草刈りだ。毛虫を駆除し、弱った木を切り倒して苗木も植える。
「原因は管理の不届きと、考えた方が妥当だと思うが」
「ふざけた事を抜かすな。若造め」
口調が荒くなった。どれだけ木を見てきたか、どれだけ木を愛しているか、長々と語り出す。
羽前も久慈も聞いていない。せめて熱心に聞く演技でもして欲しい。
少女のみ相槌を打ち苦く笑う。老人の話はやたら長い。
「わしはな、木と共に育った。ここが庭みたいな遊び場で、昔はよく蝉や黄金虫、甲虫も捕まえた。今では子供達の遊ぶ、光景を見るのが生きがいになった。親に森を任された時は、大切な緑を残していく、決意をしたもんさぁ」
「高岸さんなら大切な自然を後世に、残していけると思います」
「嬉しい事を言ってくれるね。虹ちゃん」
初対面の時から名前にちゃんをつけて呼んでいた。
啓太には十代の孫がいる。愛しい孫みたいに親しみを抱き接する。
「初めて枯れたのはあの木、次にあれ、その次があれだ。今日で四本目じゃ」
急激に枯れるなんておかしい。妖が絡んでいそうだ。
「わしが管理した中で、こんな事態はなかった」
「落ち込まないで下さい」
原因が分からず歯がゆい。顔つきから読み取れた。
「励ましてくれるのか。優しい子じゃな」
誉められてはにかむ。
「これ以上、枯らす訳にはいかん。特に最近は、異常がないか見回るよう心がけている。もう居ても立ってもいられない。若造共、しっかり原因を探せよ。虹ちゃん、頼んだぞ」
早々と歩き去ってしまった。
「元気なじいさんだな」
久慈が感嘆を滲ませた。
「元気が一番だよ」
緑色の葉は黄ばみ、茶になっている。何が起きたのだろうか。
「考えても全く答えに行き着かない」
囁き声で呟いた。風が梢を揺らす。
「手分けして原因を探そうよ」
「我は嫌だ」
「羽前は手伝う為に来たんじゃないの」
「ただついて来ただけだ」
公然と言い切る。
「放っておけ。俺とお前で探せばいい」
左の手首を掴んだ。
「でも」
「やはり気が変わった。家来と一緒なら我も探す」
今度は対抗心を燃やした、羽前が右の手首を掴む。
「えっ。本当!?」
「真だ。あちらを探すぞ」
「こっちだ」
逆方向に付喪神が引っ張った。
「我の進行を邪魔するな。貴様、手を離せ」
「後から掴んだお前が離せ。俺は自分が探したい方に行く」
「二人共、痛い」
両者が強く引き、腕がちぎれそうだ。




