お礼と照れ隠し
猫は霊的なものや妖を可視できた。
二匹はテーブルで震えながら身を寄せ合う。
「何かあったの」
「我が目を離した隙にじゃれて、毛玉達を追い駆け回したのだ」
堂々たる姿で椅子に腰掛け、すらりと長い足を組む。
「バニラは悪気があった訳じゃないからね」
烏に苛められて怯えるくらいだ。さぞ怖かったに違いない。
「きゅ、きゅ」
「きゅー」
分かったと鳴き、ボールみたいに跳ねる。素直でお利口だ。
「佐里ちゃんが君を迎えに来るよ」
「ニャー」
「嬉しいそうだ」
羽前が通訳した。
「今更だけど羽前は狐なのに、猫の言葉が理解できるんだね」
「我は生き物全般の言葉が理解可能だ。付喪神は分からぬだろ」
「そんな能力がなくても、久慈は剣術が優れているよ」
「家来は主に同意する決まりであろう」
不服を訴え拗ねた。1698歳でも幼稚っぽい所がある。
「そもそも私は貴方の家来じゃないでしょ」
「お前は我の家来だ」
じっと睨むように眼差しを注ぐ。口の端が不服げに曲がる。
この状況に困った。どうしよう。
背を向けてもまだ視線を感じた。
「何故、後ろを向く」
「貴方がずっと見ているから。耐えきれなくなって」
「我が嫌いか」
「嫌いじゃないよ。久慈とザッシー、ほわ、わんと同じくらい大好き」
「同等か」
呟いたっきり不満げに黙り込む。
失言をしちゃったのかな。彼の思考、気持ちを正しく判断するのは難しい。
「ニャオ」
「煮干しが欲しいの」
皿にあった煮干しがなくなった。
「ニャー」
「今あげるからね」
「違う」
唐突に声を上げたのは羽前だ。
「バニラは水を欲しがっている」
「教えてくれて有り難う」
「そちの間違いを正す事が主の役目だ」
顔を背けて小さく言った。
彼のお陰で水が出せた。バニラが舌を使ってぺろぺろ飲む。
「喉が渇いてたんだ」
ずっとザッシーは動きを観察している。
「猫、好きなの」
「うん」
「猫派なんだ」
「ねこは?」
「犬より猫が好きって事だよ」
意味を告げ知らせると納得した。
時が経ち鈴がりんりん音を立てた。
「虹」
久慈の呼び声だ。
玄関には佐里と茶髪の女性がいた。
「陰陽屋さん。バニラは?」
早く姿を見たいようだ。
「ちょっと待っててね」
羽前が白猫を抱いて来た。
「あっ。バニラだ!」
破顔して受け取るなり、ぎゅっと抱き締める。
「どこにいたの。心配したんだよ」
「ニャ、ニャー」
「此奴は遠くに行きすぎて迷子になったのだ。己の行いを十分省みている。許してやれ」
少女は「許す」と頬ずりをする。仲良しだ。
「陰陽屋さんが見つけてくれたの」
「私も探したんだ。けれど、見つけたのは羽前だよ」
手で示すと叩き落とされた。
「有り難う。お兄さん」
笑顔でお礼を言われ、
「礼には及ばない」
照れを隠し答える。
「この度は、勝手な娘の頼みを聞き入れて下さり、真に感謝致します。つまらない物ですがお受け取り下さい」
母親が紙袋を虹に渡す。
「気遣いは無用です」
「受け取ってお願い」




