仲を取り持つ
不可解な表現の意味を考えた。結局答えに近づけず疑問が残る。
「家来の手にのる雀は死骸か」
冗談に聞こえなかった。内心苦笑しつつ教える。
「眠ってる生きた雀だよ」
「何故、手の中にいる」
「空を危うげに飛んでて、枝にぶつかったから、とっさに手を出して受け止めた。怪我も治したの。家に帰ったら、ドライヤーで乾かすつもり」
「そちがやらなくとも、自然に翼が乾けばまた飛べるようになる」
確かに彼の言う通りだ。
「でも、放っておけないでしょ」
「それが虹のいい所なのだな」
「誉めてくれるんだ」
「もっと誉めてやろうか」
やたら色気のある眼差しを送られ、即座に逸らす。正体は五尾だが異性を惹きつける魅力を持つ。
恋愛をせず生きてきた少女は、魅力には免疫がなく弱い。
雀が目を覚ました。歩く揺れで起きてしまったのだろうか。
「今私の家に帰っている途中よ。君の体を乾かして、ちゃんと外にかえすね」
「チュン」
鳴き声に反応を示し、バニラがじっと見る。あれは獲物を捉えた目だ。
「雀を食べたがっている。あげていいか」
「絶対ダメだから!」
おなかを空かせたバニラの為に食べ物が必要だ。買わなかったら恐ろしい事が起きる。
久慈に一旦雀を預け、スーパーで煮干しを買った。戻って来るなり「遅い」と文句を言う。
「急いだ家来に向かって、その言葉は許せん」
「俺が何を言おうが俺の勝手だ」
「羽前、私は気にしていないからいいよ」
「そちは此奴に対し厳しさに欠ける」
雰囲気がぴりつき荒々しい。透かさず二人の間に入って背中を押す。
「早く帰ろう」
「押すな」
「急かすな」
仲を取り持つのは大変だ。ちょっぴり泣きそうになった。
陰陽屋に着いた。すっかりここが我が家である。
「羽前、バニラに煮干しをあげて」
「我は心が広い主だ。家来の頼みを叶えてやるぞ」
餌をやる為、五尾は台所へ向かった。
バニラを発見した、いい報告は後、佐里に電話で伝えよう。
洗面所に入り、ドライヤーを手に取った。
「これは濡れた髪を乾かすドライヤーっていうの。これで君の翼も乾くよ」
「チュン?」
「怖くないからね」
オンにして暖かい風が起こる。不安そうだったが、次第に雀は慣れ羽毛は乾ききった。
「飛んでみて」
翼をばたつかせ飛び、狭かった為ドアにぶつかる。大きな音が鳴った。
「大丈夫!?」
「チュン……」
この子は他の雀より鈍くさいようだ。
玄関の引き戸を開け、空は青くなっていた。
「雨が降った日は気をつけてね」
せっかく仲良くなれたのに別れが名残惜しい。
「チュチュン」
雀も虹と同じ気持ちみたいだ。
「いつでもいいから遊びに来てよ。またね」
向かいの屋根に止まり此方を見つめる。
笑顔で手を振った。暫く動かず、そして飛び去ってしまう。
「お前、まだ着替えていないのか」
久慈がタオルを投げ渡した。黒いティーシャツにジーンズ。シンプルだが似合っている。
未だ少し湿った髪を拭く。
「自分の事は後回しだったから。わざわざごめん。気遣わせちゃった」
「そんな事はどうでもいい」
顎で二階を示す。早く行けと彼の声が聞こえてきそうだ。
黙って従い自室に入り、引き箪笥から水色の狩衣を選ぶ。指貫も足袋もはき替えた。
時刻は四時を回っていた。小学校が終わった頃である。
電話をかけ繋がった。
「もしもし、宇川さんのお宅ですか」
『陰陽屋さんの声だ!ひょっとしてバニラが見つかったの』
電話に出た者はちょうど佐里である。陰陽屋と認識している。が、妖専門なのは知らない。
「そうだよ。佐里ちゃん、今から来られるかな」
『うん。すぐお母さんと行くね』
ここにいなくても彼女の喜びを強く感じる。偶然でも羽前が見つけてくれてよかった。
台所には煮干しを食べるバニラ、羽前、ザッシー、ほわとわんまでいた。
「白猫、可愛い」
座敷童子が頭を撫で撫でする。




