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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
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思わぬ幸運

「暫く動けなさそうだね」


「誰かの所為でな」


 咎める目で見た。


 そんな目で見なくても……。


「まぁ、偶にはいい」


 小さな早口でどこか恥ずかしげに付け足した。


 くすっと笑い、尖った針を刺す如くの睨みに強張る。


 危うげに空を飛ぶ雀が一羽いた。枝にぶつかって落ちてくる。


 とっさに虹は前方に手の平で受け皿を作った。何とか受け止めた。


 最初は静かだったが状況に驚き、鳴いて羽をばたつかせる。


「大丈夫だから、大人しくして」


 優しく呼びかけた。すると暴れなくなる。


 つぶらな瞳に見つめられ、可愛さに心が和む。


「昔から生き物を手懐けるのが、やけに上手だったな」


「手懐ける気は全然ないんだけど」


 小学生の頃、野良猫に餌をやり続けたら、通学路の行き帰りをついて来るようになった。


 鳩は肩にのるまで懐いた。


「君、怪我をしてる」


 翼が赤く滲んでいる。枝に引っかかり傷ついたようだ。


「私が治すね」


 手を翳し呪言を唱える。陽力が傷口を瞬時に治癒させた。


「もう痛くないでしょ」


「チュン!」


 雀は雨に濡れて水気を含む。


「濡れた状態で飛ぶのは難しいから、一緒私達と雨宿りしようか」


「チュン。チュン」


「言葉が分かるのね」


「適当に鳴いているだけだろ」


「チュ、チュン!」


 久慈の言葉を否定するように鳴いた。雀は手に乗ってても軽い。


 雨音を聞いて記憶が呼び覚まされる。


「ねえ、雨の日に私を迎えに来た事を覚えてる?」


「いつの話だ」


「中学生の時、不注意で傘を忘れた。私は雨に打たれながら走って帰った。髪も制服、靴もびしょびしょで嫌になってうずくまった。そしたらわざわざ久慈が迎えに来てくれた。凄く嬉しかったな。思い出せた?」


「記憶にない」


 嘘をつく。証拠は目線が泳いだ。


『馬鹿、冷たい雨に打たれたら風邪をひくぞ』


 引っ張り立たせて傘を渡した。嫌な気分が吹っ飛んだ。


「何かと貴方には迷惑をかけてきた」


「今もかけている」


「掘り返すの。傘の件は仕方ないでしょ」


 未だ根に持っていた。


「今度からは気をつける」


「その言葉、忘れるなよ」


 雨は降り続けた。運良く15分程でやんだ。


 灰色の空に光が差す。


「早くやんだね」


 居心地がよかったのか雀は目を瞑り寝てしまった。明日は手と肘が痛くなりそうだ。


「そいつ、どうするんだ」


「まだ全体が濡れてるから、ドライヤーで乾かしてあげたい」


「猫探しは?」


「後で再開する。一先ず久慈はバニラ探しをお願い」


 渋面を作るじっと懇願の眼差しを送り承諾を貰った。


 道の遠く。銀髪の青年が此方へ歩む。まさかと思ったが……。


「羽前!?」


 猫を腕に抱いている。


「こんな所でどうした。家来?」


「佐里ちゃんの依頼で行方不明になった、白猫を探していたの」


 白い毛。黄色い瞳。赤い首輪。この子は――。


「バニラ」


「ニャオ」


 やはり佐里が探していた白猫だ。


「どこで見つけた」


「散歩途中に路地裏で此奴を見つけ話をした。迷子だと言った。飼い主を捜す約束をしたが、急に雨が降ってきた為、共に軒下で雨を避けた」


「この子は私が探していた依頼主の猫なんだ」


 のんびり自由に暮らす羽前は、陰陽屋を手伝うと言っていないが、いつか手伝ってくれる。虹は信じている。


「そちが探していた白猫を我が、見つけるなんて偶然あるのだな」


 水晶占い通り北の方角は当たっていた。思わぬ幸運はバニラと一緒に、やって来る羽前の事だった。


「目的の猫は見つけた。帰るぞ」


 早足で行ってしまう。


「あっ。久慈」


 肩を並べて帰ればいいのに。二人の仲は出会って以来相変わらず悪い。


 顔を合わせれば睨み合い、気に障るのか言い争う。


「よく彼奴と仲良くできるな」


「私もね。初めから仲が良かった訳じゃないの。話しかけても無愛想で、嫌われていると思った。無愛想だけど、受け答えはしっかりしてくれた。本当は優しい私の大切な相棒なんだ。きっと羽前も仲良くなれるよ」


「我は仲良くしたいなど思わん。腹立たしいのと同時に奴が羨ましくなった」

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