飼い猫探し
あれ以来、妖絡みの依頼はこなくなった。少女の悩みの種だ。
陰陽屋としての知名度より、何でも屋としての知名度が上がっている。
嬉しいような。ちょっぴり悲しいような。
三日前から飼い猫を探していた。小学四年生、佐里の依頼だった。
小さな子にお金は請求できない為、無償で働いている。
空はどんより曇って今にも雨が降り出しそうだ。
「バニラ、どこ。出て来てよ」
猫の名前はバニラ。単純に白色だから名付けたらしい。目は黄色、赤い首輪をしている。写真で確認した。
「今日見つけられなければ、猫探しは終わりだ」
「佐里ちゃんに見つける約束をした。私はあの子を悲しませたくない。久慈も同じ気持ちでしょう」
腕を組む久慈は黙ったままだ。
「水晶玉で居場所を占ったら、北の文字と金色の羽根が映った。北の文字は単に方角が北という意味、金色の羽根は思わぬ幸運という意味。北を探せば思わぬ幸運によって、見つかると思うんだ」
「お前の水晶占いは曖昧すぎる」
「あれが手一杯だよ」
もっと明確に分かれば早く発見できるはずだ。水晶占いの腕を磨こう。
一度バニラを見つけたものの逃げられている。捕まえようと躍起になった怖い付喪神の所為だ。
道や隙間、駐車場、車の下、屋根。探しても全然いなかった。
20分程は周囲に気を配り歩き回った。神経を使い疲れる。
「ねぇ、久慈。公園のベンチで一休みしよう」
「おい!」
手を掴んで引っ張った。
公園には滑り台、砂場、ブランコ、雲梯がある。
どれも懐かしい。幼い頃に遊んだ。
特にブランコは乗った。漕ぐ時の風が気持ちよく、母が迎えに来るまでひたすらやり、手を繋いで帰る道が大好きだった。
ベンチに座って足を伸ばす。
「いつまで俺の手を掴んでいる」
「ごめん」
手を握る感触に安心して掴んだ状態だった。
「もう少しだけ握ってていい」
「即刻、離せ」と言われる可能性を予想して身構えた。が、予想は外れる。
「好きにしろ」
ほんのり顔が赤みを帯びた。
この伝わる温もりは彼のものだ。付喪神だが生きている。
「先、亜美を思い出していただろ」
「私って分かりやすい?」
「理解するのが簡単だ」
思いや考え、喜怒哀楽が顔にすぐ出る。隠し事は苦手だ。
「どんな事を思い出した」
「幼い頃、絶えずブランコに乗っていたの。漕ぐと風が気持ちよくて、ずっと遊んでいられた。夕方になるまで遊んでいたから、心配してお母さんが迎えに来てくれた。手を繋ぎながら帰ったんだ」
手を離して空を仰ぐ。青空だったらよかった。
「両親と和解する気はないのか」
「……」
表情が固まり沈黙してしまった。
もっと早く口にできた言葉を彼は、奥底に仕舞っていた。虹の気持ちを優先し、触れないように避けてきた。
「和解したいけど無理だよ。伝える事は伝えた」
ぎゅっと拳に力を込めた。届くと信じた思いは届かず、希望もことごとく打ち砕かれた。
「諦めるのか。お前らしくない」
「私だって諦めたくなる。二人は清々してるよ。勝手に出て行った分からず屋の娘なんか、いない方がいいでしょ」
自分で言葉にして虚しくなり、目に見えぬ傷が疼くようだ。
「これはお前の問題だが、意固地になる分だけ悔やむのは虹だぞ」
「貴方の言っている事は間違い。私は悔やんでいない!」
陰陽屋を諦めていたら、更に後悔の念に苛まれる人生を送った。
強く当たってしまった。自分の最低さに嫌気が差す。
「何が善くて何が悪いか、本当は分かっているだろ」
微かに頷いた。
「ちゃんと向き合う時が来たら向き合え」
「向き合えるかな」
直視するだけで答えてくれなかった。
本心は向き合いたい。だが、向き合う事を拒む自分がいる。
陰陽屋なんてやめろ。陰陽師なんてやめろ。
やる価値を無価値だと言われ、存在も否定された。
二人は印西から虹が陰陽道を学ぶのを快く思わず嫌がった。
内緒で教えて貰い、修行を積んだ。妖退治に動向した事も秘密にしてきた。
私はうずくまったままだ。ダメダメだから時間を要する。
雨がぽつぽつ降ってくる。次第に勢いを増し髪と狩衣が濡れた。
「あの木に雨宿りだ」
彼が大きな木を指差した。
駆け足で木の下に移動し雨宿りする。
「傘を持ってくればよかったね」
「俺は持って行けと言った。お前が曇りでまだ大丈夫だとか、言ったんだろ」
「あれ、そうだったっけ?」
忘れた演技を自然にしつつ笑ってごまかす。
ざあざあ降りで枝葉の隙間から落ちる。




