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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
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約束を果たす為に

 彼女の気配がなくなった。半分眠った状態が通常に戻る。


 意識はあった為、不思議と視覚や感覚は共有していた。


 有り難うの声も聞こえた。


 由真の大胆な行動が頭を離れず火照る。虹がやった訳ではないが自分の体だし……。


 とにかく恥ずかしい。穴があったら入りたい。


「そちには感謝している。由真に合わせてくれた」


 感謝の気持ちが溢れんばかり胸に伝わってくる。


「お礼なんていいよ。私が会わせたくてした事だから」


 よかった。未熟でも役に立てて。


 霊力の消耗が激しい。一気にどっと疲れが押し寄せる。


「怪我をさせて済まなかった」


 かなり申し訳なさそうだ。


「これくらい大丈夫」


 ずきずき痛むが大した怪我ではなかった。


 傷に手を翳す。忽ち傷口は塞がり癒えた。痛みもなかった。


「許して貰えるか」


「勿論」


 虹は和解の印に手を差し出し、羽前が握った。


「私、霜松さんに邸の取り壊しをやめるようにお願いする。必ず心を変えてみせるから」


 これが辿り着いた結論。邸を取り壊したくない意思を尊重したい。


「そうしてくれると有り難い」


 笑った。蟠りなく漸う打ち解けた。


「帰るぞ」


 通常より声が低い。少女の後ろ襟を引っ張る、久慈の扱いはぞんざいだ。


「機嫌悪い?」


「別に」


 つんと横を向く。不機嫌なのは確かである。


「私何かした」


「何にも」


 ますます分からなくなる。


「あれをやったのは由真だ」


「黙れ」


 険悪に睨む。


 羽前は久慈が不機嫌な原因を察している。


 首を傾げて虹はあれこれ思量し、原因を明らかにしようとした。



 翌日夕方、仕事終わりの賢治を陰陽屋に呼び寄せた。


 少女の隣には相棒がいる。


「怪奇現象を起こした正体は、由真さんと仲良しだった羽前です」


 包み隠さず真実を教えると虹は決めていた。男も知る権利がある。


「どういう事でしょうか」


 困惑気味に問う。


「四歳の頃、由真さんは白狐と出会った。その白狐が長い年を経て、尻尾が五本に分かれた五尾で、羽前に化けていたのです」


 賢治は沈黙した。頭の中を整理していき、静かに話し出す。


「たった今まですっかり忘れていた事がありました。幼少時代、あの森で尻尾が五本ある白狐を見て、両親に話しても信じて貰えませんでした。私は詞蔵さんの話を信じます」


 知らぬ間に彼も羽前を目にしていた。


「これから身勝手な事を言って、気分を害するかもしれません。ですが、聞いて下さい」


 目を逸らさずまっすぐ見つめる。


「羽前が怪奇現象を起こした訳は、取り壊そうとする人間から、邸を守っていただけです。由真さんとの思い出がある大切な場所を――」


 顔つきに変化が表れた。


「霜松さんが邸を取り壊したい理由は、娘との思い出があそこに、ありすぎるからです。彼女が死んで貴方は、悲しみに耐えきれず引っ越しました。本来楽しいはずの思い出が苦しめるから。引っ越せば苦痛が和らぐと考えた。でも、和らがなかった」


 人の死は残酷な現実。故に残された者へ大きな傷を残す。


「いつしか悲しみの根源である邸がなくなれば、苦痛から解放されると勘違いした。感情から逃げないで下さい。少しずつ受け入れて下さい」


「詞蔵さんが仰っている事は全て正しいです。私と妻は未だに愛娘の死を受け入れられません。親より先に逝くなんて親不孝者ですよ」


 痛ましい面持ちになる。


「ふとした瞬間に悲しみに襲われ、由真の事を極力忘れる努力をしました。弱い私にはできなかった。だから、引っ越して楽になりたかった。邸を取り壊せば、胸を痛ませる感情が消える。自身の考えを正当化した。それが逃げだと気づいています」


 賢治の立場だったなら逃避だとしても、虹も同様な対処をとる。


 だが、死者は大きな傷を残すだけではない。


「由真さんはこの世にいません。けれど、彼女は残してくれた。たくさんの思い出です。他にも邸にはまだまだ思い出があります。霜松さんと両親のもの、羽前のもの。私はあそこが悲しみの根源ではなく、人が生きた証だと思います」


 邸は何も言わないが賢治の成長、由真の成長も見てきた。二人が育った場所だ。


「だから、邸を取り壊すのをやめて下さい。お願いします」


 約束を果たすんだ。少女は頭を下げる。


「俺からも頼む」


 ずっと無言だった久慈が頭を下げた。


(俺はお前がやるから仕方なくだ)


(うん。仕方なくね)


 彼は否定するだろうが間接的に羽前の為である。


「頭を上げて下さい。私は愚かでした。間違える手前だった。邸は取り壊しません。妻を説得してもう一度住みます。大変でしょうが、苦しみや悲しみも笑顔で乗り越えます。その方が由真も喜ぶはずです。逃げるのは今日で最後です」


 一歩前に進む勇気を貰った、男の表情は晴れ晴れとしてよい。きっと乗り越えられる。


 密かにエールを送った。


「重要な事に気づかせて貰い、感謝しております。依頼料は明日お支払いします」


「必要ありません」


 最終的には丸く収まった。が、受け取れない。

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