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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
17/33

溢れる感謝

 力強く断言した。両足を前に組んで横に広げた。


 手を合わせ、親指から小指を順に離す。手の平は上に向け拳を握り、曲げたままの四本同士と親指先をくっつける。


 霊力を体内に巡らせる。片手を地につけ紋様が形成された。


「我の魂よ。黄泉へ落ちろ」


 すっと抜けるイメージをして簡単に体から離れた。自分の姿形があり顔には触れず、色も薄くなくはっきりしている。


 地面がふにゃふにゃになって、虹の魂は闇の中を凄い速さで落ちた。


 感覚があり恐怖を感じる。自分を励まして堪えた。由真に会う為だ。


 遂に落下が終わり黒い世界に漂っていた。


「ここが黄泉――」


 声が出せた。恐らく霊感を持たぬ人は聞き取れない。霊なら話は別である。


 黄泉は死んだ人がいく国とされる。


 とても静かで不気味な所。


 勇気を出してすっと進み、丸い光がぽつぽつ見えてきた。同じ色もあれば違う色もある。


 赤や青、紫、緑。たくさん浮かぶ。


「あれは魂の色かな」


 綺麗な色とくすんだ色、汚い色がある。転生する前に全ての魂は輪廻神によって浄化されるらしい。魂は次の輪廻にいくまで時間がかかり、前世の記憶や穢れが消えて新しく生まれ変わる。


 不意に目的の魂を捜せるか不安になった。自分が今からやる事は無謀だ。呼び寄せる為、大声で名前を言う。


「霜松由真さん。いたら返事をして下さい!」


 しんと静寂が降り積もる。闇がどこまでも続き、広大無辺だった。


 返事がなくてもまた呼びかけた。ひたすら繰り返す。


 邸にも道にもいなかった。生前強い思いを残した場所に幽霊は現れる。


 あちらこちらを飛び回った。


「私を呼ぶ人は誰?」


 遠くだが確かに届いた。逸る気持ちを抑える。


 ひまわりを思わす鮮やかな黄色い魂。人の形をとった。髪型、顔立ちがまさしく由真だ。


「唐突ですが私は詞蔵虹といいます。貴方を捜していたのです」


「どうして私を?」


「羽前と会って話をして下さい。お願いします」


「羽前に会えるの」


 虹が頷くと泣きそうで嬉しそうな表情になる。


「どうやって話を伝えるつもり。もはや死んだ人間よ。所で貴方は何者」


「詞蔵陰陽屋を営む陰陽師です。私の体を借りれば話はできます」


「ひょっとして術を使ってここまで来たの」


「はい」


「虹なら将来優秀な陰陽師になれる。私の目は確かよ」


 喜びを感じてお礼を言い、彼女がもっと好きになった。


「行きましょう」


「ええ」


 二人は上を目指す。自由な鳥になった気分だ。


「由真さんが私の体にいる時、半分眠ったような状態に私はなります」


「貴方の中に入って大丈夫かな」


「短い間なら平気です」


 一つの体に二つの魂があるなんて通常は有りえない。長時間は魂に負担が、かかりすぎると書物で読んだ。


 眩しい光が見えてきた。あそこは現世へと繋がる。


「我、彼の者を受け入れよう」


 この呪言で霊降が完成する。光がぱっと広がった。



 辺りは暗い夜。風が吹き抜けた。


 手の大きさは自分より小さい。陰陽師が着る物の名前は知らなかった。


 胸に手を置けば鼓動がある。虹の鼓動だ。


 目前には羽前がいる。


 立ち上がり感極まって泣きそうになる。何とか笑顔を作った。


「久しぶり」


「由真なのか」


 半信半疑だった。


「疑うの」


 暗くて気づかなかったが、ここは由真が暮らした邸だ。


 私の所為で父様は引っ越して母様の明るさが陰った。


 死んでからすぐ黄泉には行かず、心配で様子を見ていた。彼も悲しませた。


「こんな時って、意外に話す内容に困るわね」


 考え込み正直な気持ちを打ち明ける。


「時は経ったけど、突然死んじゃってごめんなさい。私は貴方に会えて本当に楽しかった。遊んで、話して、笑って、怒って。一瞬一瞬が大切な思い出なの。飽きるくらい羽前を描きたかったなぁ。悲しまないで。笑っていてよ。次、生まれ変わったら画家になる。約束する」


 記憶が完璧に消えてしまっても、絵を好きになる自信がある。今度こそ画家の夢は叶えたい。


「約束は果たせ」


 偉そうに言い放つ。相変わらずだ。


「言われなくても約束を守るよ。私と一緒にいて羽前は楽しかった」


 勇気を出して尋ねた。間を持たせてから五尾が答える。


「愚問だな。楽しかったに決まっている。再び会えて嬉しいぞ」


 言葉に思いが詰まる。羽前に抱き締められた。抱き締め返す。


「私もまた会えて心の底から嬉しい。虹の腕にある傷、どうせ貴方の所為でしょ。治しなさいよ」


「分かった」


「屈んで」


 人の体を借りて悪いと思いつつ由真は頬に口づけした。


「もう伝える事は伝えたから。じゃあね、いつか会いましょう。羽前」


 呆然顔がおかしくて口元が綻ぶ。


 今日という最高の日を由真でいる間は、ずっと覚えていたい。


 虹、羽前と会えたのは貴方のお陰よ。すてきな時間だった。本当に有り難う。


きっと心の声は届いた。

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