方法
『尾が五本あり人語を話す。得体の知れぬ妖だぞ』
『えぇー。狐さんは妖なの。絵本に出てくる』
恐怖心は一切なく無邪気。羽前の正体を知っても態度は変わらなかった。
『羽前だ』
『温かい』
聞いていたのか、聞いていなかったのか、顔をくっついて喜ぶ。
変わり者の小娘だな。
『今から遊ぼうよ』
勝手に言い出した。にこっり笑む。眩しい。
『一人で遊べ』
『追いかけっこがいい。隠れん坊がいい?でも、狐さんは知らないかぁ』
『人の子の遊びくらい知っている』
訂正を諦めた。
『隠れん坊に決めた。私が隠れるから見つけて。しっかり30秒数えてよ』
由真は行ってしまった。
『勝手な人の子め』
不服を呟き仕方なく五尾は数を数えた。
新たな過去が見え始める。そこは邸の玄関。
『由真を呼んで貰いたい』
羽前が賢治に言った。
『娘はもういないんです』
『出かけたのか』
重々しく首を振って否定する。
『違います。昨日事故にあって病院に搬送されましたが、残念ながら助かりませんでした』
言葉は弱々しかった。
『冗談はよせ』
『この世に由真は…いません』
堪えるように唇を噛み締める。目は赤く腫れ泣いた事が窺えた。
通夜と葬式の日時を耳にしたが、一言も頭に残らず抜けていく。
『本当に亡くなったのか』
愚かな確かめだった。
『はい』
賢治の制止を振り切って身を翻して走った。森に入り五尾の姿に戻っても尚走り続けた。
残酷な現実に絶望感が押し寄せる。
嘘、嘘、嘘――。
森を捜せばどこかにいて、スケッチブックに絵を描き、笑いかければ笑いかける。
羽前を題材にし、油絵で描いてくれる約束もした。
『どこだ。由真』
枝葉が音を立てる。
段々虚しくなって動きを止めた。感情が荒れ狂う。
いるはずがない。
『死んだ人間を捜すなんて我は馬鹿か』
ぽたぽたと滴が落ちた。
「いつまでぼっとしている。幾度の声かけも無視か」
眉根を寄せた五尾に肩を揺すられ我に返る。周りを忘れて集中していた。
「ごめん」
謝ってから涙の訳を教えた。
「羽前はただ邸を守りたかっただけなのに。私は気づけなかった。だから、悔しくて泣いたの」
悔しさが一杯になった。情けなさも。
「そんな事で泣く事か」
呆れと困った色がある。
涙を拭って告げる。
「由真さんは死ぬ前、時間が許す限り、夢中になって絵を描いた。皆に見せる事を楽しみにしてた」
「彼奴らしい」
羽前は由真の死を聞き、孤独と悲しみに耐えた。おかしくなりそうな程苦しかっただろう。
「貴方と出会えて彼女は幸せだった。私には分かる」
「我も幸せだった。叶うならまた会いたい。無理な願いだな」
諦めている。何とかしてあげたいが方法は?
「羽前と由真さんを会わせる、方法を久慈も一緒に考えて」
「自分で考えろ」
久慈の一言が著しく冷淡で思いやりに欠ける。
少女は術書で読んだ術を記憶に蘇らせていく。どれも役に立たない。
変化して姿形を変えても中身は私だし、短い間でも本人と話が可能な術……。
あれこれ考えて閃いた。
「霊降だ」
死者の魂を自分に降ろし、術者の身を借りて死霊は他に思いが伝えられる。
「お前、そんな術使えるのか」
根本的な問題を指摘した。
「使った事はないけど、術書で読んだからやり方は頭にある」
「頭にあるだけで成功するか疑問だな」
「心配してくれるの」
「……」
無言の相棒を見つめて笑む。大丈夫、成功させるからと。
「貴方の願いを叶えてあげる」
「無理だ」
「無理じゃない」




