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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
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叶わぬ希望

 本立てには術書が数冊ある。印西から貰った宝物。


『術の用途は様々だ。レベルも容易、普通、難儀がある。陰陽師は術の数だけ立派になるんじゃない。いかにして自分なりにどう使い熟せるかだ』


 術を磨く重要性を学び、祖父の言葉は胸に刻まれどれも大切だ。


 一人でぼっと天井を眺める。時の流れに身を任せた。


 瞳を閉じて気づけば沈思黙考。羽前の正体が五尾なら、由真の死は知っている。


 21歳の若さで亡くなった。まだまだやりたい事があって、親孝行もしたかったはずだ。


 事故が人生を奪った。希望も未来も。全てを。


 感傷的になり暗い気分を追い払う。眠気を催し思考が途切れた。


 静かで穏やかな景色が辺りに存在し、虹は自分の姿が確認できなかった。


 夢か。認知できるなんて珍しい。


 景色に見た記憶があった。ここは邸の行きと帰りに見ていた。


 女の人が通り過ぎた。髪はストレート。花柄の白いワンピースを着て、肩にかばんをかけている。


 由真さん!?小さい頃の面影が残る。


 夢ではない。見え方は違うが過去見の一種。


『今日は晴れ。こんな日はいい絵が描けそう』


 気持ちがうきうきと活気づき、スキップして進む。笑うとひまわりのような人だ。


 歩き続けて街に出た。


『何を描こうかな』


 あちこち見渡す。一点に目線を定める。


『とっても綺麗なチューリップ!』


 しゃがみ込みスケッチブックを取り、鉛筆で下書きを描く。


 満足がいくまで描き直し、今度は色鉛筆で塗る。


 赤は赤でも濃い、中間、淡い。少しずつ種類が異なる。


 色鉛筆の色ってあんなにあるんだ。彼女は大量に持ち歩いていた。


 集中力が凄い。色は細かく花弁が浮き出て見える。


 手首を動かし熱心に塗った。


『完成』


 赤いチューリップと黄色いチューリップ。多彩な色使い、光と影はリアルだ。柔らかい花弁の質感がでて葉は色が近い。


 由真は時間が許す限り絵を描いた。白黒の風景は写真みたいで感嘆してしまう。時を忘れて夢中になる。


『夕方だ。帰らなくちゃ』


 空は茜に染まり、スケッチブックを仕舞った。


『父様と母様に見せてあげよう。羽前にも』


 口元が綻ぶ。彼女の幸せは絵を描く事。人に絵を見せる事。


 横断歩道の信号は青になった。渡る前、ぱかぱかと信号が変わりそうになる。


 急いで蹴躓く。立ち上がった途端、曲がり角から猛スピードの車が向かって来た。


 硬直して立ち尽くし恐怖に背筋が凍る。急ブレーキをかけたが間に合わず衝突する。


 あっけなく体は飛ばされ地面に叩きつけられた。かばんの中身が散らばった。


 路面に血が段々広がっていく。由真はスケッチブックに手を伸ばす。力尽きて意識を失った。


 一瞬にして周囲が闇に変わる。過去見が終わった。


 ドアのノックで目が覚め、嫌な汗をかいていた。


「夕食ができたぞ」


 時計を確かめ六時を回っている。


「すぐに行く」


 なるべく平常心の声で久慈に答えた。うずくまり足を抱える。


 震えが止まらない。死の恐怖と血が頭を離れない。人は脆い。命は儚い。


「虹、すぐに行くんじゃなかったのか」


「先に下りてて」


「うずくまる奴を放っておけるか」


「ごめん。眠いの」


「下手な嘘だな。話せ」


 簡単に見抜かれてしまっている。堪えたものが溢れそうになって抑える。


「由真さんが亡くなる過去を見た」


 瞼の裏が熱くなり涙は流れた。


「怖かったか」


 正直に頷き拭っても涙は頬を伝った。嗚咽が漏れる。


 頭にある確かな重み、確かな温もり。安心して恐怖心が和らぐ。


 彼に助けられ心が落ち着き涙は止まった。そっと横を向いて意外に至近距離な為、鼓動が高鳴る。


「落ち着いたか」


 縦に大きく頷き、気づけば手で押しやる。間を空けた。美麗な顔も優しさも反則だ。


「俺がそばにいたら不快か」


「不快じゃない。押しやったのは、そばだと恥ずかしいから」


「ふぅん」


 両眼を据えた状態でティッシュ箱を渡された。


「顔が涙に濡れている。見苦しいから拭け。即刻下りて来いよ」


 振り返らず出て行った。優しいのは束の間だった。


『人の過去を見るなんて楽しいものじゃない。いつかお前も理由を知るだろう』


 幼かった自分は首を傾げていた。印西が言う理由を成長して知った。


 過去は人それぞれ異なり、生き方も様々だ。楽しい思い出も見た。悲しい思い出も見た。


 人が死ぬ様は見たくない。辛くなるから。胸が痛くなるから。


「由真さんは皆に絵を見せたかったんだ」


 それは叶わなかった。でも、スケッチブックに手を伸ばす、彼女は希望を捨てていなかった。想像を絶する痛みに襲われていたとしても――。


(遅い。のろま)

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