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詞蔵陰陽屋  作者: 蓮華
11/33

答え

「どんな絵を描いていたんですか」


「食べ物や植物、動物、風景など。色々です」


 懐かしむ穏やかな表情だ。


『私が描きたいものを満足するまで描くの』


 それが口癖だったらしい。


「由真さんの絵はどれも、素敵なんだろうなぁ」


 虹は絵心には恵まれなかった。小学生時代、印西の家で猫を描いていたら、久慈に壊滅的だと馬鹿にされた。


「詞蔵さんの仰る通りです」


「描き手の心が籠もっていたからこそ、素敵になったんでしょうね」


 辛くても大変でも彼女なら夢を叶えて、画家になっている。自身の夢が叶えられず無念だ。


 突然、気配を感じて闇色の双眸を一瞥した。付喪神も気づく。


「すぐ戻りますから、ここで待ってて下さい」


 当惑で固まる賢治を置いて二人は駆け出す。


「久慈も妖の気配を感じたのでしょ」


「近いな」


 木々が目の端をどんどん過ぎていく。行かなくちゃという思いに急き立てられる。


 堂々と道の真ん中に五尾が待ち受けていた。


 白い毛が太陽の光で輝き、口先が尖り体は細い。耳は三角形、房状の尻尾が五本ある。


「それ以上近づくな」


 踏み出そうとした足を止める。


「私は詞蔵虹。貴方の名前は」


「何故、陰陽師の小娘如きに名乗らなければいけない」


 端から名乗る気はないようだ。


「率直に聞くが、邸の怪奇現象を起こしていたのはお前か」


 行き成り率直に聞きすぎだ。はらはらしつつ状況を見守る。


「起こしていたとしたらどうする」


「解答次第で命を失う」


 殺気が流れ出た。即刻戦いになりそうな雰囲気。


「たとえ怪奇現象の原因が五尾でも、そんなのダメ!」


「お前は甘い。その甘さが戦いに於て、どんな影響を及ぼすか。分かっているだろ」


「うん。分かっているよ」


 腹部を押さえて硬い顔つきになる。苦痛に支配され、血はべっとりして生温かかった。


 自分は妖を哀れみ、あと少しで死ぬ手前で助かった。久慈と印西がいなかったら死んでいた。


 同情心が滅びを招くのだ。


「もし貴方が邸の怪奇現象を起こしているなら、正直に教えて欲しいの」


 一心に眼差しを注ぐ少女。五尾の目つきは氷のように冷たい。臆せず見据えた状態を維持した。


「再び邸に足を踏み入れてみろ。今度は容赦しない」


 姿が霞みがかる。


「待って!」


 声は虚しくも届かずやがて消えた。ろくに話せなかった。気配が感じられず探すのは困難だ。


 久慈の予測が当たった。


「彼奴を放置すれば誰かに更なる危害を加える。人が傷ついてからでは遅い。今宵退治するぞ」


 虹は口を閉ざしたまま拳を握る。


 彼の言う事は一理ある。でも、認めたくない。


 五尾は由真が大好きだった。由真も五尾が大好きだった。


 人を害する妖に成り果てるなんておかしい。原因には理由がある。


 印西ならどうやって解決に導く。私ができる事は一体、何?頭を悩ませ歯がゆい。


 両者共に噤みっぱなしで黙々と歩んだ。


 賢治を待たせた訳は適当に笑ってごまかし、来た道を引き返す。


 車に戻り時間をかけ、詞蔵陰陽屋に着いた。


 連絡先を交換して男とは別れた。


 久慈は二階の部屋に行ってしまう。あれから一言も喋っていなかった。


 自室には行かず座敷で座り込む。日頃持ち歩く手帳に、実際見聞きした事柄を書いた。


「虹、悩んでる」


 眉がハの字のザッシーは小さな手で足に触れた。


「きゅ」


「きゅー」


 わんとほわが飛び跳ねる。少女を気にかけた。


「大丈夫。考えてただけだから」


 心配をかけまいと微かに笑う。


 依頼主の事、過去を見た事、五尾と出会った事。気づけば話してしまった。


「怪奇現象は五尾の仕業だったけど、絶対理由が隠れている。もし分かれば解決に繋がるんだ。久慈は人に害をなす五尾を退治する気なの」


「虹はどうしたい?」


「私は……」


 最初から迷わず答えは決まっていた。


「退治なんかしたくない。他に方法を探したい」


「久慈に伝えればいい」


「伝わるかな」


「伝わる」


「きゅー。きゅー」


「きゅ、きゅ」


 ほわ、わんも同じ気持ちだ。

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