虹の夢
物心がつく以前から詞蔵虹は幽霊も妖も見えていた。
普通の人には不可視だと知った時はかなり衝撃的だった。
輪郭も色もはっきり目に映るのに、誰が映っていないと信じられるだろうか。
朝や昼より遥かに夜の方が霊感はなくても、幽霊と妖を見る確率は格段に上がり、どちらも力が強い場合、時間を問わず姿形をとって現れる。
時に人に幸を齎し、時に害を与え禍を齎す。世で起きている不可解な事件は霊的なものか、異形どもの仕業だ。
警察は殺人や自殺、乃至は事故で片づけた。常と異なる事件に関わりたくないのだ。
「今じゃ陰陽師は劇か物語に登場する架空扱いだ。存在していても大部分が認めようとしない。儂は悲しい」
短い白髪交じりの男が縁側に胡座をかき、ちょっこんと虹は乗っている。
「私、陰陽師のおじいちゃんが大好き!」
「そうか。お前は大好きか」
祖父の名は印西という。
詞蔵家の先祖は代々陰陽師として活躍した。印西は父親に陰陽道を学び才能を開花させた。虹にとって曾おじいさんである。
自分の先祖が陰陽師だと初めて聞いた日は事実に驚愕し、同時に興奮で胸が躍った。
少女が幼い頃、祖父は口癖のように言っていた。
「お前が大きくなったら〝詞蔵陰陽屋〟を作れ。困っている人の助けとなり役に立て。虹になら可能だ。なんたってお前は、人を笑顔にする七色の虹と同じだからな。立派な陰陽師にもなるんだぞ」
その度に答えた。
「うん。約束する。絶対私が詞蔵陰陽屋を作って、立派な陰陽師にもなる!」
夢は抱くだけではダメだ。叶えてこそ大きな意味がある。
どんなお店になるのか。考えるだけでわくわくどきどきした。
虹は大好きな印西の胸に凭れ掛かって微笑んだ。