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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第五章 京都編
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第83話 電子と願望

 アズマ教授に「水」つまり「H₂O」についていろいろ教えてもらった。

 全部を把握したわけではないが、どういう性質があるのか知らなかったことも多く、やっぱり聞いてよかったと思った。次は解く自信がある。


 アサガオさんを呼んでもらい水の玉を作ってもらう。不安そうな表情をしている。

 まあそれはいずれ解消するものとして、水の玉の中にある水素と酸素を結んでいる電子の共有結合をイメージする。

 そう、水素と酸素は電子を共有することによって結合しているのだ。この繋がりを断ち切ればそれぞれに分かれることになる。


 手をかざさなくてもいける予感はあるが、念のため水の玉に手の平を向ける。

 水の中にある小さな黄色い粒を思い描く、くるくる回るそいつを二つ回転の周期から外すイメージをする。さらに二つ、もう二つ…

 アサガオさんの手の上にあった水の玉が泡を噴き始めて、やがて全部空気になった。


 めちゃくちゃ疲れる。こんなことするぐらいなら手でばしゃんとやればいい。

 封筒の中身を透視するのに30秒かかるなら封筒を開けろ、と同じことだ。

 時間かかりすぎたかなと思いつつ二人を見ると固まっていた。口をポカンと開けて。


「合格…ですか?」


 そう言うと、アサガオさんがこちらに駆けよってきて抱き着いてきた。

 これまた教授のジェラシーがと思って彼の方を見ると、涙ぐみながら何度もうんうんと頷いていた。とりあえずオーケーらしい。


―――――


 陽も暮れた頃、教授に電話を借りて店に連絡をする。店長ではなくアヤママが出た。

 いま京都にいて、用事はすぐ済むと思っていたがしばらくかかりそうだと告げ、店のみんなには迷惑をかけて申し訳ないと謝った。

 無事か訊かれ無事ですと返すと、「それならいいわ」と納得したような声だった。

「それでどれくらいかかるの」と尋ねられたので「一ケ月を目処に帰ります」と答えた。最悪クビも覚悟していたけれど「じゃあ待ってるわね」とママは言ってくれた。

 気を使わないように別のドライバー募集してくださいと言うと「ハナちゃんは黒服でもあるのだからね」とママは笑って通話を切った。


 これから一ケ月かけて、アサガオさんと教授の願いを叶えるための修行に入る。

 それはつまり、おれが元の世界に戻る方法にも繋がっている。

 やるしかない。その力が誰あろうおれにあるらしいのだから。


―――――


 水を泡にして消滅させた後、庭のテーブルでアサガオさんの願い事を聞いた。

 まずは、彼女の不老を止めること。テロメラーゼを異常に活性化させているものを断ち切り、ふつうに年が取れる身体にしてあげること。


 アサガオさんは1500年の間、あちこちを転々として暮らしてきたが、100年ほど前にライカが発売された時からここに籠っている。それまで容姿が記録に残ることはなかったが、一般家庭にカメラが普及してしまうとそうも言っていられないらしく、窮屈な生活を強いられるようになったそうだ。

 彼女の存在は科学者界隈で都市伝説のようになっていて「女王」とか「マザー」と呼ばれているらしい。なんでもちょいちょい科学者に知恵を授けてきたらしく、不老不死に加えて全知全能といった存在として噂になっているのだという。脇が甘すぎると思ったが、まあ彼女の性格からしてあり得るなと妙に納得した。

 そんなこんなで迂闊に森の外へは出られないのだという。


「わたしね、いろんな男性と暮らしてきたけれど彼ほど寄り添ってくれる人はいなかったわ。1500年生きて初めて添い遂げたいって心から思ったの。わたしの意思で加齢はできるけれどリスクが高いのよ。だから、あなたの力でリスクを排除して欲しいの。こんな我儘聞いてもらえるかしら?」


 断る理由が『やり方がわからない』だけだったので「わかりました」と返事をした。彼女にしては珍しく「ありがとう」と落ち着いた感じで感謝をしてくれた。

 すると、さらにやる気を爆上げする告白が待っていた。


「わたし、1500年の間に子供を100人ぐらい産んでいるのね。だいたいその子が12歳になる頃には不老を怪しまれるから姿を消すのだけど、最後に産んだ子が、おそらくワームホールを作っていると思っているわ」


「え?アサガオさんの娘さんが?変異ミトコンドリアはあるとして、どうして…?」


「彼女の父親が本物の天才だからよ。科学知識は私より数段上だから、電子の操作もお手の物よ。まだ一緒にいた頃に雷みたいなものを作っていたこともあったわ」


「その父親って、誰なんですか?」


「うふふ。アルバート・アインシュタインよ。彼がチューリヒ連邦大学へ入学した直後に初恋の人に会えずに気落ちしてるところを誘ったの。若い頃の彼、とってもハンサムだったのよ。でも、彼はその後に別の女性と出会わないと物理学の進歩が止まってしまうから、わたしはドイツの子爵家へ嫁いでその子を産んだわ」


 まじか。1500年のロマンスとか言ってたけど、とんでもねえなこの人。

 でも、そんな人に最後の男認定されている教授もすごいと思った。


「前の世界でのわたしの名前はウルカ。子爵家でもそう名乗ったわ。娘の名前はエルリカ。彼女は手ごわいわよ。ここである程度、その力を自由にできる訓練をしないと会えたとしても追い返されると思うわ。彼女に力を見せて味方にできれば、世界を渡るワームホールを作ることも可能なはずよ」


 遂に明かされるラスボス、エルリカの名前。

 これから修行の日々が始まる。オラわくわくして…してこねえよ。

 めっちゃ難しそうだし、安請け合いしてしまったかも…

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