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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第五章 京都編
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第80話 思念と少女

 アサガオさんたちを乗せた宇宙船がブラックホールに突入する際に、未知の能力を得た。その力があれば1500年前にタイムスリップしたり水を手から出したりできるということなのだろうか。つか100人の少女全員がそうなった?


 宇宙船がブラックホールの重力圏内に到達し脱出不可能となった瞬間、警戒アラートに混じって多くの少女の悲鳴が聞こえ、宇宙船の全機能が停止した。

 真っ暗で何も見えなかったが居住区画の壁がすごく遠のくのを感じた次の瞬間、身体が足元から解けていくのを感じた。身体の感覚はなくなったけれど考えることはできた。

 一緒にいた子たちの記憶が流れ込んできたような、知らない人や風景を見たような気がするけれど、それも一瞬でよく覚えていない。

 その後は、どうなってしまったのか全くわからないまま真っ暗なところにいた、どのくらいの時間が経っていたのかわからない、ということだった。


「意識を失ったのかどうかもわからないまま真っ暗闇の中にいたの。動いていたのか止まっていたのかもわからないまま。それでね、次に気がついたときにはわたし、空を飛んでいたのよ。地球の空を」


「空を?ブラックホールの最奥ってやっぱり抜け出ることができるんですか」


「おそらく『結合』する力がなければ無理よ。ブラックホールの中で肉体が維持できなくなった時に『結合』する力でわたしの意識だけが塊になっていたと思うの。それが量子意識という形になって、量子トンネルでこの地球に抜け出られることができたってそう考えているわ。わかりやすく言えば『思念体』になったのよ」


 出た出た量子!不思議現象に必ず関わってくる不思議理論!

 ブラックホールの中の出来事はまず理解できないとして、アサガオさんは思念体になることで自我を保ったまま脱出できたらしい。


「もしかして、そこが1500年前のこの世界っていうことですか?」


「そうよ。一目見てわかったわけじゃないけれど、いろいろ見て回っているうちにそれを知ったの。ほら、その時のわたし電子の塊じゃない?だから空間を移動するのが物凄く速いの。ピュって。あそこに行きたいなと思ったらもう着いているぐらい」


「でもそしたら、いまのその身体はなんなんですか?能力で作ったんですか?」


「貰ったのよ。最初は肉体がないことを楽しんだのだけれど、話し掛けると気味悪がられるしなんだかつまらないなって思ったのね。だから一週間もしないうちに身体が欲しいって思うようになったの。でもその方法に辿り着くまでに結構時間がかかわったわ」


「思念体暮らしってGoogleMapを眺めているだけみたいなものですよねきっと」


「そう!あなた例えがお上手ね。どんなに綺麗な川があっても触れないんだもの、すぐに飽きちゃった。でね、肉体を得るには他人のものを使うしかないと思って、最初は死んでまだ腐っていない人に入ろうとしたの。そしたら、これはマズいって直感でわかったわ。あのまま入っていたら電池が切れたみたいに死んでいたと思う」


「ゾンビですもんね… もしかしてゾンビの仕組みも『結合』する力ですか?」


「あはは。ゾンビは作り話よ。この力があってもゾンビにはなれないわ。それでね、申し訳ないけれど生きている人の身体に入ろうとしたのね。そしたらめちゃくちゃに声が聞こえてきて無理だってわかったの。それはそうよね、生きているのだもの」


 生きている人間の脳内に別人格を丸ごと植え付けようとしても、元の人格があるのだから、気が狂ったような状態にしかならないのだろう。誰だって謎の声が四六時中聞こえてくれば精神が崩壊する。その時には思念体の側もおかしくなるのだろう。


「死んでなくて、意識がない状態の人を探すしかないですね」


「ええ。半年ぐらいかかったと思うけれどようやく見つけたのよ「この子」を。旅をしている一団の中に病気で倒れていたわ。歳も同じくらいだし「この子」がいいと思って観察していたの。半分は回復して欲しいと思っていたけれど、ロクな医療もない時代だから残された身体は私に任せてって。それで「この子」の反応がなくなって、私が新しい身体を手に入れることができたの」


「その『入る』っていうのは実際にはどういう仕組みなんですか?アップロード?」


「そうね、「この子」のニューロンのシナプス結合に干渉して私の意識を脳にダウンロードしたの。身体も病気で死ぬ寸前だったから「生きたい」って強く強く思ったわ。それでミトコンドリアが『結合』する力を発揮してこういう身体になったの」


「その力で死んですぐなら蘇生できるってことですか?」


「他人は無理よ。自分の身体というかわたしが宿った身体だから、脳内の電子に私の強い意思が結ばれて、肉体操作を可能にしたというところかしら」


 思念体が脳死状態の肉体に憑依した姿が今のアサガオさん、ということか。

 能力の獲得条件がアレすぎて全く理解できないけれど、他にも同じように思念体になって憑依した子がいるとしたら、その子孫がアヤママとか能力者ってことなのか。

 おそらくパウラさんは未来の宇宙船に乗っていた少女の可能性が高いな。


「この世界っていうのは、あなたが元にいた世界の過去なんですか?」


「いいえ、ここは違うと思うわ。どこがどうってなかなか説明ができないけれど。そうね、この世界にはカスピ海もマダガスカルもないのよ」


 カスピ海?マダガスカル?地図を見ないとわからないけれどそれがないのか。

 両方ともおれの知る地名だ。もしかしてアサガオさんのいた元の地球って…


「今夜はここまでにしましょう。少し疲れちゃった。続きはまた明日ね」


 ゲストルームとして用意された寝室でアサガオさんの話を反芻しながら眠った。

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