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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第三章 地元編
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第61話 罠と大激怒

 10時頃に目が覚めた。ひとまずクスメギに連絡を入れる。

 ちょうどこちらを発つところだったようで、ここ何日かのお礼と昨夜、店で施主を紹介され仕事の依頼があった旨を伝えた。

 クスメギは「よかったじゃねえか。ママに感謝だな」と言っていた。


 掃除と洗濯を済ませて着替え、下の喫茶店で昼飯を食べる。

 17時に現場で待ち合わせなのでまだまだ時間はある。ホームセンターへ行って方眼のノートとペン数本とコンベックス、仕事用の鞄を持っていなかったので適当な大きさのリュックも買った。

 車に戻って買ったものをリュックに放り込む。ダッシュボードからモバイルバッテリーとスタンガンを取り出して入れる。部屋に戻ってノートPCを入れたらどこでも仕事ができる環境が整うことになる。


 約束の時間が近くなったのでフル装備のリュックを背負って部屋を出る。

 現場のビルの路肩に軽の箱バンが停まっていた。エンジンは止めている。

 運転席に体格のいい男が乗っていて、昨日の人の知り合いかと思い頭を下げたが彼は一瞥しただけ。この件とは関係ない人物なのかもしれない。


 昨夜会った東南アジア系の女性、リンダさんが見当たらないので地下に降りてみる。地下の店のドアを開けると彼女はカウンター席に腰かけていた。

「お待たせしました」と声を掛けると「来テクレテ、嬉シイデス」と返された。

 リュックをカウンターの上に乗せて、ノートを取り出しおれも彼女の隣に座る。


 リンダさんは自分の店を持つことがいかに嬉しいか語り始めた。

 というかぐるぐる同じ話をしている。そのくらい興奮しているのかもしれない。

 なんかいろいろ言っているけれど、店を持てて嬉しい、あなたに会えてよかった、店が出来たらあなたは無料、とかそんなことしか言ってない。大丈夫なのか?


「リンダさん、そろそろどんなお店にしたいのか具体的な話をしましょうか」


「ウフフ、アナタノヨウナ、セクシーナ、ナイトクラブニ、シタイデス」


「セクシーですか。それってイメージがあります?こんな感じっていうお店とか」


「ウウン、アナタガ、トテモ、セクシーダカラ。モウ、我慢デキナイ」


 そう言うと彼女は身を寄せてきて耳元で「ダイテ」と囁いた。

 もうわかってしまった。そういうことかよ… それにしても雑すぎるだろう。

 モンテビデオの病院で洗面器持ってきた女といい、こいつといい、こんな雑なやり方で靡くと思われているのか…


 期待を裏切られた悲しさと、雑な罠を仕掛けて来られた腹立たしさが入り混じっていままで感じたことのない怒りが込み上げてきた。


 満面の笑みを作って彼女に向け、リュックに手を突っ込み手探りでスタンガンを取り出す。ちゃんと使ったことないけれど、え?と驚く彼女の首筋に押し当ててスイッチを入れる。

 バジジジジと電撃が彼女を襲い「ギャッ」という短い叫び声を上げて彼女は椅子から落ちて床に倒れた。電撃なのか床に頭をぶつけた衝撃なのかわからないが、とにかく彼女は気を失った。


 すぐに階段を上り、ビルの前に停めている車の運転席側に回り、窓をノックする。

 男はエンジンを掛け窓を降ろして怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 無言のまま男の首筋にスタンガンを押し当て再びスイッチを入れる。

 電撃を食らうと女と同じように「ギャッ」と短い叫び声を上げて助手席側に男は倒れたが気を失ってはいないようだ。「うぅぅ…」と呻き声が聞こえる。


 窓から腕を突っ込みエンジンを止めてキーを引き抜くと、携帯を取り出して警察へ通報する。「どうかされましたか?」と若そうな声。

 ハナダと名乗り、国籍不明の男女に襲われそうになってスタンガンで身を守った。

 一人は失神したけれどもう一人は意識があるようだ。また襲われるかもしれないから早急に確保してくれ、住所は~、早口で一気に説明する。


「落ち着いてください。すぐに向かいますので、もう一度ゆっくりお願いします」


「急いでんだよ、起き上がっちまうだろうが!市役所の通りのXXって居酒屋の向かいだよ早く来てくれ。話がいってるはずだろ?ハナダだよ、聞いてないのかよ!」


「落ち着いてください、もう一度…」


「録音を聴き直せ!使えねえなあ!てめえ離島に左遷されちまえよ!」


 携帯に向かってそう叫んで通話を切った。

 悔しくて悲しくて怒りが収まらず完全に八つ当たりになのだが止められない。

 スタンガンを持つ手が震えている。冷静になるため深呼吸をする。いくらか思考がクリアになりクスメギの方からも警察に来るよう連絡してもらおうと思い発信する。


「おい、なんだよ。もう寂しくなっちゃったのか?」


「お花畑かよおまえ。襲われそうになったんだよ。東南アジアの男と女に」


「なっ… あんたは無事なのか?」


「無事だから電話してんだろハゲ。スタンガン使って呻いてるけど、いつ起きて襲ってくるのかわかんねえし。警察も通報したけど、落ち着け落ち着けって使えねえし」


「警察には通報したんだな。こっちからも連絡するから住所教えてくれ。あとこれ切るなよ。繋げたままにしてくれ」


 外事室の事務所にいたようで、誰かに警察の手配を頼んでいる声が聞こえる。

 地下の女の方はスタンガンがなくてもどうにかなるとして、車の男の方は起き上がられたら面倒なことになると思い、待っている間、男の様子をじっと見ていた。


 この街なら平和だと思ってたのに。どこでバレたんだろう…

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