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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第一章 転移編
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第2話 海と飛翔体

 いい加減、海、飽きた。まじで。

 遭難して救助を待つ人の気持ちってこんな感じなのだろうか。

 危機への恐怖とか生への渇望とかそういうの長続きしないのな。

 そりゃあ嫌だなあって感じはずっとしているけれど。

 とにかくこの状況に飽きた。海なし県民だけどもう海はおなかいっぱいだ。


―――――――


 家族で海水浴に行ったときに、こどもにいいところを見せようとして溺れかけたことがある。長い距離を潜って泳いでいたときだ。

 ちょうど真上に浮島があって息継ぎができなくて、海中で肺の空気を全部吐き出してしまった。そのときフワーっとなんだかいい気持ちになった。

 海水を腹いっぱい飲み込んだり肺の中に水が入るようなことになれば、苦しかったり痛かったりするのだろうけど、その前にフワーっとなって気を失ってしまえば…

 そう思ってちょっと沈んでみたものの、やっぱり苦しいだけですぐに浮いた。

 無理だ。こんな状況でも自ら死ぬのは無理だ。


―――――――


 いま、体力ゲージがどんな状態なのかわからないけれども、たぶん黄色。

 こいつを使い切る前にどうにか陸地に上がりたい。

 それが無理ならせめて流木みたいなものにでも掴まりたい。

 丘ぐらいある亀の甲羅でもいいし、プレシオサウルスの首でもいい。

 とにかく拠り所が欲しい。漂流仲間でもいいからさ。

 首を動かして辺りを見回してみても海面から浮いているものは自分だけだった。

 酷い話だ。こんなのアニメもドラマも映画にもならない。イライラするだけだ。


―――――――


 このままもう家族にも会えないのだろうか。

 連絡が取れず、いつまでも帰ってこないから心配するだろうな。

 行方不明の届けが出てからどのくらいで死亡扱いになるんだっけ?3年か?

 生命保険は死亡扱いになるまで掛け続けなきゃいけないのだろうか。

 もし保険金貰った後でひょっこり帰れたとしたら金返さなきゃいけないのかな。

 後始末が厄介だな、行方不明って。



 こどもたちが一丁前になるまで見届けられなくて残念だ。

 おれがいなくてもあいつらは育つと思うけれど、蒸発したクソ親父みたいに扱われるのは嫌だな。駆け落ちしたとか勘違いされたらもっと嫌だ。一人ぼっちなのに。

 そんなふうに嫌われてたら、戻れたときに孫が生まれていたとしても、一緒に風呂には入れさせてくれないんだろうな。孫…かわいいんだろうなあ。


 お客さんだって急に仕事放り出されて困るだろうな。

 そんなにたくさん仕事は抱えてないれど、あちこちに迷惑かけることになる。

 せっかく始めたゴルフにも行けないのか、クラブセットが無駄になっちゃうな。

 もう、おじさんたちと飲みに行って馬鹿話もできないのかな。

 変な歌ばっかりカラオケで歌って腹筋が千切れそうになることもないってことか。



 一度でいいから女の子にチヤホヤされたい人生だったな。

 それは生き延びてもチヤホヤされる可能性は限りなくゼロだけど…

 金も大して稼げない人生だった。それだって生き延びても…

 でもなんか、ささやかでも面白おかしく続いて欲しい人生だったな…


 ―――――――


 しばらく何も考えずに浮いていた。

 徐々に太陽が昇って強く顔を照らし始めている。眩しくて目が開けていられない。

 だけど冷えた身体を温めてくれるほどの熱はない。水の中はとても寒い。

 なんだかんだで諦めることなく浮いていたけれど、体力の限界がすぐそこまで来ている。意識が飛びそうだ…



 波の音しか聞こえなかったのに…

 波の音に交じって、遠くから羽虫の飛ぶような音が聞こえてくる。

 なにかが飛びながらこっちへ近づいてくる。

 音は徐々に大きくなってくる。


 うっすら目を開けて、眩しさに目を慣らして音の方へ視線をやる。

 グレーの鳥が猛スピードで、羽ばたきもせず飛び去るのを見た。

 200mほど離れたところを真っすぐに飛んでいった。

 あれは鳥でもドラゴンでも妖精でもなく、小さな飛行機だ。

 おそらく偵察用のドローンだ。映画で見たことがある。

 ドローンにはカメラが付いているはずだが、おれの姿を認識できなかったのだろうか戻ってくる気配はなく、はるか彼方へ飛び去ってしまった。



 つかなんだよ!


 異世界じゃねえのかよ・・・

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