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結ぶと解く  作者: ながずぼん
最終章 帰還編
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第247話 集合と合戦

 ホテルをチェックアウトして夜まで喫茶店で過ごすことにした。スーツケースの中に1000万円入っていると思うとドキドキしてハンドルを握る手に自然と力が入る。

 そいつをガラガラ引っ張って喫茶店に着くと、師匠が「いらっしゃい」と迎えてくれた。アサガオさんとエルリカは端のテーブル席に座って話をしている。おそらくドイツ語なので何を言っているのか全然わからない。昔話なのかもしれない。


 アサガオさんたちから一番遠いテーブル席に座り、師匠に淹れてもらったフレンチコーヒーを飲んで煙草を吸う。最高に居心地がいいのだけど夜までは持たないな。

 スマホでネットニュースを眺めながら二杯目の珈琲を飲んで三本目の煙草を吸い終わる頃、懐かしいというか珍しい人が来店してきた。


「ウチヤマ先生じゃないですか!どうしたんですか?」


「ハナダさんが帰還するってアズマさんから連絡貰って。人間がワームホールを開くだなんていくら例の素粒子の働きがあるからといっても私の理解を超えていますから、見ないわけにはいきませんよ」


 先生の近況を尋ねると、やっぱりこの素粒子の研究は難しいらしくどうやっても机上の空論になってしまうらしい。観測も実験もできないのだから無理もない。

 そんな中、手慰みで異世界転生した兄妹が謎の素粒子で魔王討伐に繰り出す私小説を書いて投稿サイトに上げたところ、そこそこ読まれているとのことだった。

 相手がいくらチートスキルを持っていようが、チート能力を解いてしまえば怖いものなしで、妹の能力で敵対する相手はすべからく窒息させて倒すらしい。


「先生、まじの魔法使いがそこに座ってるんで素粒子由来の魔法のアイディア教えてもらったらいいですよ。火と風と水と雷が使えます」


 そう言ってエルリカを席に呼んでウチヤマ先生に紹介した。彼女は父親を模倣する中年のことを最初は訝しんでいたが、科学知識があり魔法に応用するアイディアについての話し相手になるとわかると嬉々として新しい魔法のアイディアを話して聞かせていた。


 エルリカを引き抜いてアサガオさんが暇そうになってしまったので席を移動して、彼女に金庫はいつもの場所に隠したか尋ねると「やっぱり天井裏よりも床下のほうが落ち着くわね」と笑っていた。

 昼飯の時間になり師匠にお昼ご飯を作ってもらった。この日はコンプレットというハムとチーズと卵のスタンダードなガレットだった。

 アサガオさんと食べているとクスメギとハナザワさんがご来店。ウチヤマ先生が来た時点で「水臭いなあ」という空耳が聞こえる程度に彼の登場は予定調和だった。

 案の定「どうしていつも教えてくれないんですか」と再会早々ぐざられた。


 ハナザワさんは先にアサガオさんに挨拶を済ませてからおれの隣に座った。


「そういえばハワイで内閣情報調査室のイチカワさんて女性に監視されましたよ」


「はい。聞いています。なんでも私たちが内閣直轄になるのがあちらは面白くないようで。というのもDCで失脚した外務省の事務次官が調査室の高官と旧知の仲のようで、あることないこと吹き込んでいるみたいなんですよ。ほんとに困りものです彼」


 イチカワさんが監視していたのはテカテカの仕業だったのか。どうしてそんな奴が事務次官とかになれちゃうんだ。もっとNSAみたいに思想とかゴリゴリに内部調査すればいいのに。国に害を成すのはどっちだよって。


 その後、ハナザワさんとアサガオさんで核融合発電の研究団体について話をしていたのだけれど、よくわからなかった。とにかく電気事業連合会だけは関わらせるなとアサガオさんの指示があってハナザワさんが承知していたのはわかった。


 座ってばかりも疲れるし散歩にでも行こうかなと思っていると、アヤさんとアオイさんが頭に雪を乗っけて入って来た。え?雪降ってんの?


 「雪降って来たんですか?」と尋ねると「積もりそうよ」とコートの雪を払いながらアヤさんが教えてくれた。窓の外を見ると大粒の雪がはらはらと落ちてきている。

 なんだよ散歩に行こうと思ってたのに…って、まてよ?これだけ降れば…

 アサガオさんにアヤさんたちがお昼食べ終わったら雪合戦しないか持ち掛けると目を輝かせて「あのときのリベンジね!」とやる気満々だった。


 店に来ていた人たちが何台かに分乗して山の方にあるグラウンドへ移動する。思っていた通り街の中より雪が多く一面真っ白で、くるぶしぐらいまで積もっている。

 ルールはよくわからなかったので、ギブアップ申告で退場するバトルロイヤルにすることになった。それぞれが離れてアサガオさんの号令で戦いの火蓋が切って落とされる。


 いきなりエルリカの高速直角スライダーが飛んでくる。顔に当たる直前で雪玉を手で叩き落として命拾いをした。反撃したいけれどおれには反則級の攻撃手段がない。

 アサガオさんはアメリカでのリベンジに燃えおれに集中砲火を浴びせてくる。飛んでくる雪玉を霧に変えているのだけど攻撃の手が緩まない。ふと見れば師匠がせっせと雪玉を作って渡している。う、うぜえ… とりあえず走って射程圏内から逃れる。


 すると今度は雪玉製造機になったアヤさんから受け取った雪玉を甲子園一歩手前のクスメギがばんばん投げつけてくる。弾幕がアサガオさんの比じゃない。避けたり手で弾いたり霧に変えたりめっちゃ忙しい。なんとかしないと…と思いハナザワ、ウチヤマコンビの元へ駆け寄り、二人をクスメギの射線上に置いて盾にした。


「痛い!酷い!」とハナザワさんが言うので「あいつクビにした方がいいです。ロイヤリティの欠片もない」そう言っているのが聞こえたのかクスメギの攻撃は止んだ。

 と思ったら氷の玉が飛んできた。当たらない軌道だったけれど危なすぎる。飛んできた方向に目を向けるとエルリカがニヤニヤしていた。そしてぐにゃぐにゃ気持ち悪い感じに曲がる雪玉を投げてきた。今度は当てるつもりらしい。霧に変えて凌ぐ。


「みんなで彼をやっつけましょう!」とアサガオさんが号令をかけると全員がおれを狙い始めた。誰もいない方向へ走って逃げて全員を視界に収める。

 ばんばん飛んでくる雪玉を霧に変えて対応するも、目の前に扇状に広がった8人がじりじりと寄って来る。アオイさんまで悪い顔をしてにじり寄ってきている始末。

 雪玉製造機だった師匠やアヤさんまで嬉しそうにぽんぽん投げてくるし。

 おれそんなに恨まれるようなことしたか?

 

 でもこの構図ならやってみたい反撃方法がある。うまくいくのか知らんけど。

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