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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十一章 真相編
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第232話 因果と進化

 そもそもおれが干渉縞の情報構造を見れることや、トランス状態ver.2への進化、果てはワームホールを開くことをエルリカは「知っていた」と言う。どうしてそこまで言い切れるのか尋ねるのと同時にピッツァの最後の一かけらに齧りつく。


「いくらこの場所が特異な場所だとしても、私がリガビスの能力でワームホールを生成するにはこの場所で”未来に”ソルベレでワームホールを開くという空間情報構造を逆向きに波及する条件がなければ不可能だった。循環因果というものだ。

 14年前に私はここでワームホールを生成できた。つまり、お前がこの場所でワームホールを開くことが確定しているということだ」


 最初はなんの話をしているのかわからなかった。細かく嚙み砕いて説明してもらってようやく理解した。エルリカのワームホールは、条件的にこのBlue Holeの持つ自然環境が地球上でもっとも生成しやすい場所だった。

 でも、結ぶ素粒子では能力的にワームホールの入口を作れない。なんだけど、この場所にワームホール生成の痕跡があればそれに再接続して入口を開くことができた。

 裏技的に生成しているものだから入口の出現場所はコントロールできず、地球の重力ポテンシャルが最も対称的に分布する2点、つまり対蹠点同士にワームホールが出現していた。量子状態の揺らぎが同期を取りやすいからだそうだ。


 2年前のワームホールはエルリカが「誰かが通る」というイメージを盛り込んだがためにマルチバースの浜松に出現して、入口がマルチバースだったからなのかこっちのウルグアイの海に仮想的な位相共鳴条件が生じたのだそうだ。


「とにかく、おまえの思惑通りにおれは呼ばれてここでワームホールを開くことになっているってことか?」


「そういう見方もできるが、お前を選んだのは私ではない。量子エンタングルメント、言い換えるなら《《情報の結びつき》》があったからだ。もしかしたらお前と結びついていたのはウルグアイの海中にある何かかもしれないな」


 はあ?あの飛び出た先の海の中になにかがある…?

 あそこの座標なんか特定なんかできるのか?あ、師匠ならデータを…って大学辞めるときに破棄しちゃったんだっけ。気になるけどそれは謎のままでもいいか。

 とにかくワームホールを開いて家に帰るのが最優先だ。


 ピッツァをご馳走になったら洞窟の外に出て、エルリカに見守られながら例の光の波に溶ける訓練をする。もしも同期できたなら目の前の空間と洞窟の入口あたりの空間を馴染ませるように解くイメージをするように言われた。それが第三段階のクリア条件であり、帰還するためのワームホール生成の大いなる第一歩になるらしい。


 早速トランス状態になって目の前の空間の膜を見る。そして波チャンネルに移行して例の光る樹氷のような波を認識する。ここまでは順調だ。世界がうねうね明滅していてとんでもないことになっている。

 これ以上溶けるとかなりヤバい領域になりそうで、最悪、世界に溶けすぎて戻れなくなる可能性もあるから、帰還するためにエルリカに手を握ってもらっている。

 やばくなったら脳内に呼びかけて引き戻してもらう安全弁だ。

 こいつは魔法ロボなのでトゥンクすることはない。手汗だってかいてないし。


 そんなわけで自我をさらに世界に溶かしてみる。波チャンネルを見つけたときのようにこの能力は意思の力、つまり脳内の電子にどれだけ想いを乗せられるかが鍵なんだが、今回ばかりは逆なんだろう。本当のトランス状態になるような頭の使い方をしてみる。


 頭を空っぽに… ギリギリまで真っ白に…

 波のうねりに呼吸を合わせる… 揺らぎに合わせて…

 おれの情報は最低限に… 溶けろ… 溶けろ…



 おお… ゆらゆらする… まぶしい… ああ、繋げないと…


 あそこと… あそこ… いびつだ… 少しずらして…


 ああそうか… もうくっついたんだ… ありがとう…


 声が… 聞こえる… |Ja! Ja! Ja!《やった!やった!やった!》… ああそうだ… 戻らないと…



 明滅する樹氷の波が見える。溶けていた自我を元に戻すことができたようだ。

 ぎゅっと目を瞑ってもう一度開けると相変わらずの崖の上だった。

 左手が絞られていて痛い。そちらに目を向けると大きく目を見開いたエルリカが棒立ちで洞窟の入口の方を見ていた。口まで開けて固まっている。


「どうなった?開いたか?波と波がくっついた感覚はあったけど」


 はっ!と正気に戻ったエルリカは繋いだ手を離したと思ったら、泣き出しそうな顔をこちらに向けて首のあたりに飛びついてきた。


「|Erstaunlich! 《すごい!》|Erstaunlich!《すごい!》 Erfolg!(成功だ!)


 抱きついたままなんか叫んで飛び跳ねてくる。

 とにかく嬉しそうなのはわかるが、そんなに押されると支えきれな…あぶねっ…


―――――


 気が付いたら洞窟の中のベッドに寝かされていた。

 傍らには上機嫌のエルリカが椅子を持ってきて座っておれの様子を見ている。

 起き上がろうとして首を動かしたら後頭部がズキンと痛んだ。そっと触るとなかなかのこぶができている。

 飛び跳ねるエルリカを支えきれずに倒れて気を失ったようだ。本当にあるんだなこういうふうに気絶したりすんの。つうか頭の内出血とか大丈夫なのかおれ。


 それはそうとさっきからエルリカさんが乙女の顔しておれの髪を撫でている。


「ごめんなさい。つい嬉しくて飛びついたりして。でも目の前であの光景を見せられたら冷静ではいられなくなって。頭はすぐに冷やしたから大丈夫だとは思うけれど」


「真後ろだったからお団子が多少クッションになってくれたんだろ。それより成功したのか?波と波がくっついたように感じたけれど」


「ええ、成功よ。1秒にも満たない一瞬の光景だったけれど、目の前と洞窟の入口にワームホールの真っ黒い穴が開いたわ」


「そうか…そうか。おまえの予言通りにここにワームホールの痕跡がついたってことなんだな。これでやっと帰れるんだ…もう一度あれをやんなきゃだけど。そうだ、出口の座標だっけ?それを設定するのにおれの頭の中を覗くんだろ?」


「ええ。でも今は休んで。また今度にしましょう。それにしてハナダミツル、あなたが父のいた時代にいたとしたら、晩年にあんなふうに悩まずに済んだのに惜しいわ。神はサイコロを振らない代わりに、イカサマ師を連れてきてくれたのね。うふふ」


 エルリカお嬢さんはすっかり口調がしおらしくなり、穏やかで慈愛に満ちて嬉しそうな笑顔を向けてずっとおれの髪を撫でている。

 まさかこんな小娘みたいな不老の魔法使いにトゥンクするとは思わなかった。



 第十一章【真相編】了

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