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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十章 継承編
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第185話 遣いと再会

 9月になり店は法人化された。聞いていた通り店のメンバーに入れ替えはなく実質今までと変わりはなかった。タケちゃんは社員になったけど、シンちゃんやリョウ君はバイトのまま。タケちゃんは店長候補ってことなんだろう。

 アヤママの店にはお祝いの生花がたくさん届けられていたが、アオイさんの店には一輪すら届かなかったのを知って、なんだか生々しいなと思った。


―――――


 9月の半ば、師匠から連絡があった。なんだか電話が遠い。どこにいるんだ?

 挨拶もそこそこにすぐにアサガオさんが代わって話始める。


「あのね、すっごく申し訳ないんだけど、京都の森の家まで行ってきて欲しいの」


「え?あの家にですか?あの家がどうかしたんですか?」


「あなたが寝ていた部屋があるでしょう?あの部屋の床下に手提げ金庫があるのよ。それを持ち帰ってあなたに預かっていて欲しいの」


 は?手提げ金庫?「なにか大事なものでも入っているんですか?」と尋ねると「ええ。全財産よ」と事もなげにとんでもない返答がある。なに言ってんのこの人。いくら見つけにくい場所とはいえ全財産隠すの雑すぎるだろ。


 あそこの家を知っているのはおれしかいないのだろうけど、全財産回収なんて重大なことを自分で行けない理由はどういうことなんだ?そう思って「いまどこですか?」と尋ねると「ミャンマーよ」と答えが返って来た。やっぱり日本じゃなかった。ミャンマーで何をしているのかわからないけど行くしかなさそうだ。


「ひとまず回収してきて預かっておけばいいんですね?」


「ええ。中身確認してもいいし半分ぐらいならあげるから。悪いんだけどお願い」


 そこで通話が唐突に切れた。後ろからマシンガンの音でも聞こえれば緊急事態なのはわかるけれど、風呂場で喋っているような音質で周囲の音はわからなかった。

 まあ、冬に二人が来たら聞けばいいかと思って、次の日曜に行くことにした。


 京都といえばウチヤマさんはどうしているだろうか。

 日曜に京都に行くのだけど会えますか、とメールを入れておいた。

 もしかしたら元の世界に戻る前に会えるのは最後になるかもしれない。


 夜、店でアオイさんに京都まで行ってくるからと月曜にお休みを貰った。

 「急にお休みが伸びるってことはないですか?」と心配そうに訊かれた。

 「ただのお遣いだから大丈夫だと思うよ」と答えた。前例があるからそう言われるのは仕方のないことだなと苦笑いが出る。


 その日のうちにウチヤマさんから返信が来ていた。家に来て泊っていけと書いてあった。素直に甘えることにして、日曜の昼過ぎぐらいに伺いますと返事をした。


 ―――――


 土曜の送りから戻ったらすぐに寝て日曜は目覚ましで8時に起きた。

 着替えをリュックに詰めて背負い、空のスーツケースを転がして駐車場まで行き、どっちも後部座席に放り込んで出発。

 高速道路に乗ったとき、こっちの世界でロングドライブは初めてだと気付いた。このタイミングで変な故障が起きないといいんだけど…


 中央道から名神に入って草津ジャンクションで新名神に一旦入りぐるんと回って草津田上で降りる。降りたところの信号を右折してまっすぐ行って指定されたスーパーマーケットの駐車場に入れる。ひとまず無事にここまで来れた。

 ウチヤマさんに連絡をすると、どんな車か訊かれ紺のワゴンですと言うと「あー、いたいた」と言われて通話が切れる。


 捕捉してくれたみたいなので車を降りてきょろきょろすると、ぼさぼさ頭のヒゲのおじさんがにこにこしながら手を振ってこちらにやってきた。


「お久しぶりですね。お元気そうでなによりです」


 柔らかい笑顔でそう言ってくれるウチヤマさんは口ひげを生やしていて、物理学者というより文豪みたいになっていた。あ、違う。あれはアインシュタインなのか?

 「すごい貫禄が出ましたね」と言うと「他の教授に若造扱いされないように試行錯誤した結果がこれです」と笑っている。舐められまいとした結果がコスプレなのか。大変なんだな教授稼業も。


 お昼ご飯は食べたか訊かれ、まだだと言うと、そうじゃないかと思って用意してあると言ってくれたので甘えることにする。晩飯も甘えることになるのに申し訳ない。

 先生の車の後についてスーパーから移動し、似たような交差点をいくつか通り過ぎて似たような家が並ぶ道の一軒の家の駐車場へ車を入れる。

 アーリントンの住宅もそうだったけれど、一度離れたら二度とこの家は見つけられない自信しかない。こういう住宅地が好きなのかなとか思いつつ車を降りる。


「ここって先生のご実家なんですか?」


「家は宇治の方にあったのですが売ってこの中古住宅を買いました。教授になって余裕ができたのと、やっぱり通勤時間がもったいなかったんで。家内も子供たちも引っ越すことを嫌がらなかったのが救いです」


「お父さんが家にいてくれるほうが嬉しいんでしょうね。相変わらず仲良しですね」


「ははは。どうでしょうね、そのうち娘たちが洗濯物は一緒に洗うな!とか言い出さないか不安で仕方ないですよ」


 先生がドアを開け「ただいまー」と声を掛けて玄関に入ると、中からダダダっと長男くんが走ってきて「あっ、ちょんまげまた来たー!」と笑って出迎えてくれた。

 先生に続いてリビングに入ると、奥さんが「遠いところわざわざすみません」と恐縮しているので「こちらこそアメリカに続いて押しかけてしまってすみません」とこちらも恐縮至極な感じでご挨拶を交わす。いやほんと甘えちゃってすみません。

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