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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第十章 継承編
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第180話 露呈と法人

 おれが拗ねたせいで悪くなっていた店の雰囲気も、しっかり反省したことで随分と良くなり、店の中の変化に気付けるようになった。

 シズカさんはタケちゃんの好き好きビームを割と受け止め始めているようだった。

 ノゾミさんはちょっと事務的だけどおねだりに遠慮がなくなってきているし、ギャルたちはボトル客の席と飲み放題客の席のはっちゃけ方が明らかに違う。


 一番驚いたのはユヅキさんで、彼女は「あっ、はい」ぐらいしか言ってないけれど、席に着くと隣じゃなくてほぼ正面を向いて首だけ話者に向けている。なのでおじさんたちの会話が回る。水割りを作る所作とかめちゃめちゃなところがあるけれど。


 そんなこんなで8月に入り1週間ぐらいが過ぎた頃、閉店間際にアヤママが店に来た。「どうしたんですか?」と尋ねると「電話しても出ないから」と言われ、携帯をボトル棚に置き忘れているのに気付く。なんであんなところに置いたんだろう。


「今夜、いいかしら?お店開けてもらっても」


「いいですよ。ママだけですか?あいつも来ます?」


「2人で行くわ。サトルさん、東京出張にハナちゃんも行って欲しいみたいなのよ」


「わかりました。じゃあ送って店開けたら連絡しますね」


 アヤママは用事が済んだらすぐに帰って行った。で、隣にいたタケちゃんが興味津々と言わんばかりに「お店を開けるってなんですか?」と尋ねてくる。めんどくさいことになりそうだと思いつつ、仲間外れだと拗ねたおれが隠すのもどうかと思い、「おれ喫茶店やってんの。そこの話だね」と言うと「まじっすか、なんで黒服やってんすか」と食い気味に訊かれ「まあいろいろあって譲ってもらったんだ」とだけ。


 そこからは一気に話が広まり、みんな行ってみたいと言い始めたのだが一組限定だから別の日にしてくれとお願いした。

 送迎中もギャルたちに酒は飲めるのかと訊ねられ「喫茶店だし深夜に酒を提供すると生活安全課に届出がいるから」とアルコール類は置いてないと説明すると「持ち込みならいけんじゃね?」と言い始め「そんなだったら家で飲めばいいじゃん」と言うと「人ん家で飲むから楽しいんじゃないですか」と謎理論をぶつけられた。


 4人送って駐車場からアヤさんに連絡を入れ、喫茶店に着いてすぐにアヤさん、クスメギ、アオイさんが喫茶店にやってきた。珈琲でいいというのでテーブルに運ぶ。


「東京に付いて来て欲しいんだって?おれになにか用事があるのか?」


「室長が会いたがってるんだよ。そろそろ半年経つけど様子はどうかって」


「ハナザワさんが気にしてくれてんだ。じゃあ顔出さないとだな。ママは?」


「うふふ。お邪魔かしら?」


 もうそろそろ薄い本勢も諦めてくれた頃にそういうこと言わないで欲しい。


「そんなのおれが邪魔者じゃないですか。車、別々でもいいですよ」


「そんな寂しいこと言わないでよ。そうだ、アオイちゃんも行かない?サトルさんたちがお仕事してる間は暇になるから、一緒にお買い物行きましょうよ」


 「えっ、いいんですか。あ、でも…」と彼女が飲み込んだ言葉は察しがつく。

 「アオイさんはママのお守りだからそこ気にしないで。でも、気を遣ってくれてありがとね」と言うとアオイさんは「はい、じゃあお言葉に甘えて」と笑顔で言った。


 その後、来月からの新体制についてクスメギから説明があった。

 ママを代表取締役にして奴が専務取締役、店長とアオイさんが部長、タケちゃんが社員。あとはおれも含めて全員バイトのまま。監事にはママの古いお客さんが無償で名前を貸してくれることになっているらしい。


 「せめて監事ぐらいあんたの名前も入れたかったんだけどな。そんなことしてもきっと喜ばないと思って、バイト扱いにさせてもらったよ」


 「おれの名前でハクが付くわけでもないし来年から先を見越して考えなよ。気を遣ってくれたのはありがたいけど役員に名前があってもハンコ押さなかったよ」


 ちょっとしんみりした空気になってしまった。そんな顔しないで欲しい。


―――――


 お盆休みは店がお休みになりクスメギたちと東京へ行く。奴が車を出してくれた。

 助手席にはアヤさんが乗っていたので後部座席に乗り込むと、アオイさんが黒いニットの半袖を着て微笑んでいたので、知ってて殺しに来たなと思った。


 エアコンを効かせた車内はちょっと腕が肌寒く感じるぐらい冷えていて、アオイさんに「寒くない?」と尋ねると「前は陽が当たってるから」と言って我慢している様子だった。とはいえおれも薄着だし着替えの入った荷物はトランクだし…

 アームレストを倒してみるとトランクスルーの扉があったので、そこを開けてスーツケースに手を伸ばし、ごそごそやっていると「なにか荷物がいるのか?」とクスメギに声を掛けられたが「ここから取れる」とだけ言ってジャケットを回収した。


 「暑いのに上着持ってこいって、このためだったのかな」とアオイさんに渡すと「私、ハナさんを殺しに来たのに逆に殺されちゃいそう」と笑って肩からジャケットを羽織った。

 そんなおれのジェントルムーブも、ほどなくしてアヤさんがクスメギに言ってエアコンの風量を落としたので、おれのジャケットは用なしになった。


 途中、双葉サービスエリアに寄ったときにアヤさんが「ハナちゃんはアオイちゃんまで私の店に戻す気なのかしら?」と笑って言われたがアオイさんは違うでしょと思った。

 彼女はなんというか「ぽいこと」を愉しんでいるだけだと思う。店で客相手にやってるのをさんざん見てきているし。

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