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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第九章 浸透編
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第178話 疎外と理由

 アオイさんから何もしないでくれと願いされて以来、気持ちが死んだまま過ごしている。どうせいなくなるよそ者なのだし動かれると邪魔なのだろう。どうでもいい。

 いやいや、いい大人なんだから寂しがって拗ねるなよともう一人の自分が言うが、全く気持ちが切り替わらない。いますぐ時空に穴開けて帰りたかった。


 「なんか、メイさんがいなくなって店の雰囲気、寂しくなりましたね」とタケちゃんに言われても「で?」と返すだけ。おれが悪いのかよ、と思ってしまう。

 不機嫌さを隠しもしないおれに、みんなが腫れ物に触るような態度になってきているし、アオイさんもやりにくそうで必要最低限の会話しかしていない。


 7月の終わりにクスメギに呼び出された。

 態度が悪いから店のみんなが困ってるとか言われるのだろう。

 どうでもいい。どうせよそ者でいなくなるのだから、クビにでもすればいい。


 全員帰った後のアヤママの店に行くと、ボックス席でクスメギが一人で酒を飲んでいた。ママと一緒にお説教じゃないってことはいよいよクビかと思った。

 奴の向かいにボスンと腰掛けると、グラスの中身を一気に煽ってから真っすぐこっちを見て、何を思ったのかサッと頭を下げた。


「なんのつもりだよ。おまえに頭下げられるような覚えはねえぞ」


「悪かった。あんたが何もしないようにアオイさんに言わせたのは俺だ。すまん」


「はあ?店のためにやったことだろ。だったら堂々としてりゃいいじゃねえか。気持ち悪いんだよ。引っ搔き回すつもりはねえよ、さっさとクビにしろよ」


「店のためじゃねえ。あんたと彼女のために時間が必要だと思って。だけどそれであんたを縛り付けたのは俺の間違いだった。本当にすまない」


 おれと彼女のために時間が必要だ?アオイさんもこいつもなにを言ってんだ?

 メイさんが店を辞めると困るから、こっちの店で引き取ったんじゃねえか。

 そもそも黒服がオンナのコに手を出しちゃダメなことぐらいわかってんだよ。

 おれが悪かったよクスメギきゅん!とでも言うとでも思ったのかこのクソメギが。


「頭下げて気が済んだか?ならおれはもう帰る。おまえも早く帰ってアヤさんによしよししてもらえよ。よそ者だから話が通じなかったよーってな」


 そう言って立ち上がると、あいつも立ち上がりテーブルに足を掛けたと思ったら殴られた。え?また?ていうかなんで殴られたの?おれが悪いの?


「だから…そこを謝ってんじゃねえか…あんたを除け者みたいにしたって!」


 次のパンチは避けた。避けた上で思い切り顔に拳を叩きつけてやった。

 あいつの顔の骨なにでできてんだ?っていうぐらい殴った手が痛かった。

 クスメギは殴られた勢いでバランスを崩してソファに倒れ込んだ。


「毎度毎度2発殴られるわけねえだろ。八つ当たりしやがって。殴り合ったら友情が芽生えるとでも思ってんのかこのボケカス。ジャンプの読みすぎなんだよ」


 罵声を浴びせながらクスメギを見ると、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。


「は?なんで泣いてんのおまえ。殴られて悔しくて泣いちゃったのか?ははは、意味わかんねえよクソが。じゃあな」


 あいつが泣いてるとこ初めて見た。面白いからもうちょっと見たかったけれど復活して殴りかかられたら面倒なことになると思って帰ることにした。

 裏口のドアに手を掛けようとしたら勝手にドアが開いてアヤママが入ってきた。


「やっぱり!!ハナちゃん、サトルさんに呼び出されたんでしょう?」


「あ?話があるって来たら謝られて殴られて、殴り返したら泣いちゃった。アヤさんあのバカに乳でも吸わせてやんなよ。おれはもう帰るから」


「ダメよ。帰さないわ。ちゃんと話をするまで私が帰さない」


 ちょっと見ないうちにアヤさんは凄みが増していた。いまここで帰ったら本当に独りぼっちになると言われているようだった。

 「う、うん、わかった」と言ってクスメギが泣いているボックス席に座る。

 アヤさんは「ううう…」と情けない呻ぎ声を出していつまでも泣いているクスメギにおしぼりを取ってきて渡すと、おれの隣に座った。


「あのね、ハナちゃん。あなたとメイちゃんをそっとしておきましょうって言ったのは私なの。あなたが誰にも踏み込まない理由は理解していたし、メイちゃんの気持ちもよくわかるから。彼女、前の旦那さんと別れてからもう恋愛はいいって言ってたのよ」


「なんか、DV受けててクズ野郎だったって聞いてたけど」


「いまから昔のメイちゃんの話をするわね。それが彼女を辞めさせずに私の元に戻した理由だから。それを聞いてあなたがどう思うか、何をするのかは私にはわからないけど、あなたにはもっと早く知っておいて貰えば良かったかもしれないわ」


 メイさんのお母さんはアヤさんの美容部員時代の先輩だったそうで、早くに旦那さんを亡くしたお母さんが一人で彼女を育てていたという。だからメイさんのことは子供の頃から知っているのだそうだ。

 メイさんが高校卒業後すぐにお姉ちゃんを出産し子供の父親である彼氏と入籍。2年後には弟くんも生まれて、お母さんと5人で暮らしていたが、彼氏がギャンブルにはまり多重債務を抱えると家の中で暴れるようになり離婚して追い出したんだとか。


 彼が去った後メイさんは拒食症になり、困り果てたお母さんからアヤさんが相談を受けて頭を覗いたら「子供たちのお父さんを追い出した」と自分を責めていたので、店に手伝いに来るように行って、昼と夜2人の母親にケアされながら過ごすようになったそうだ。

 ガリガリだった彼女が厨房で働きながら徐々に回復して、すっかり体調が良くなると試しにドレスを着せて店に出してみたところ、生まれ持っていた対人スキルが発現してたちまち人気になったらしい。


 おれたちが夜中にコンビニで飯を食っているのを知って嬉しかったと言われた。

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