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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第九章 浸透編
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第158話 銀座と仮装

 銀座のうなぎ屋でアズマ教授とアサガオさんと昼飯を食べている。

 メニューはいろいろあったが、ひつまぶしにした。最後の味変が好きだから。

 関東風なのか関西風なのか皮目がパリパリのやつで嬉しかった。

 ふわふわのやつが食べたいならアナゴでいいと思っている。とはいえふわふわ派の言い分もあるのだから人には言わないし、そもそもうなぎを頻繁に食べないし。


 そろそろお茶を掛けようかなという頃合いで、やけに大人しいなと思ってアサガオさんの顔色を窺ってみると案の定、恒例の恋バナ探偵に変身してきた。

 彼女もまたお茶を掛ける段階までうなぎに集中していたっぽい。


「ねえ、あの娘と何日も昼も夜もずっと一緒だったわけだし、どうだったのよ?毎日隣で寝てたんでしょう?しかもあの娘すごく美人じゃない。グラっときたんじゃないかしら?きたわよねえ?」


「いつ訊いて来るのかなと思ってました。さっきも話しましたけど何もなかったですよ。そりゃ寝る時とかやたら薄着だしドキドキしましたよ。でもそれだけです。恋愛感情はないし性的な接触もないです。それに告白もしてないのにフラれたし」


「ぷっ、なにそれ。あなたまたフラれたの?どうして?足が臭かったのかしら?」


 ホテルでは意図的に端折ったが、スケベするとかしないとか言っていた話を聞かせた。そして空港でその気持ちは彼女の勘違いだったと告げられた、と話した。


「ふーん。二人ともまんまとヨハンソンさんの誘導に乗っかったってわけね。でもまあデレデレしているところをサヨちゃんに見られなくてよかったじゃない。ふふふ」


 サヨさんね。確かに。彼女に命がけで「浮気者―!」とかバチバチやられたら弁明もできない。それでも彼女の無事がわかるのなら、とか思ってしまう。


 うなぎ屋を後にして手始めに携帯を買いに来た。本体はどうにもならないが海外での紛失ということでSIMの再発行が通った。しばらく手持無沙汰で待っていると新しい携帯が手に入った。連絡先とかはクラウドからダウンロードして復元もできた。


 携帯の手続きをしている間に「先に買い物に行く」と言われていたので買ったばかりの携帯でアズマ教授に連絡すると、デパートの屋上にいると言われた。

 銀座中央通りを足早に移動してそちらへ行く。最初に買うべきはコートだったかなという程度には寒い。教授たちの待つデパートに着きエレベーターで屋上に上がる。


 屋上に出ると二人はベンチに腰掛けていてアサガオさんの脇にはでかい紙袋が2つ置いてあった。付き合わされたであろう教授は少し疲れた顔をしていた。


「寒いでしょう?コートを買っておいたわ。どっちも絶対似合うから着てみて?」


 渡されたでかい紙袋に入っていたのは茶色の長めのピーコート?だった。

 どこかで見たことある服だなと思い羽織ってみるとサイズはぴったりだったが、窓に映る自分を見て「その大砲で私と勝負するかね!」と言うしかない見た目だった。


「うん。似合ってるわよ。もう一つの方は派手だけど、きっと似合うから」


 そう言って渡された袋を開ける前から、ボルチモアでの教授のコートを思い出してなんとなくソッチ系だろうと想像がついていたが、袋を開けて絶句する。

 ピンク地にグレーのガーゴイル柄のロングコートだった。黄色の縁取りと裏地の赤が眩しい。これを銀座のどこで買ってきたんだろう… とりあえず羽織ってみる。


「ちょっと派手かなと思ったけど、やっぱりあなたならそのぐらい着れるわね」


 確かに「僕はもう十分に逃げた」と言える経験はしてきたけれど…


 これを着ているおれを想像して買ってくれた気持ちにはお礼を言わねばならない。

「ありがとうアサガオさん、大事に着るね」と言った。ひとまずハウルコートは袋に仕舞ってムスカコートを羽織る。スカーフしてなきゃ普段使いできそうだ。


「それでこれからどうするの?他の買い物もするの?」


「いや、普段着は地元でも買えるし、このまま新宿へ行ってバスに乗ります」


「そう。タダヒトさん疲れちゃったみたいだから私たちも帰ろうかしら」


 一緒に下まで降りてデパートの前でアサガオさんたちがタクシーに乗り込むのを見届けてから地下鉄とJRを乗り継いで新宿に着く。

 バスターミナルで一番早い時間の高速バスのチケットを買い、乗り込む前におれの部屋がどうなっているのか確認するためにクスメギに連絡する。


「おっ、生きてたか。大変だったそうじゃねえか」


「ああ、どうにか生きて帰って来た。それでおれの部屋ってどうなってんの?」


「月末より前に引っ越したから空いてるぞ。一応掃除はしておいたけど」


 引っ越したって?


「部屋を借りたのか?ホテルじゃなくて?」と訊くと「ああ、アパートを借りた」と返事があった。東京で借りていた部屋は解約したそうだ。あの街で生きていく気まんまんじゃねえか。

 「それで今日帰ってくるのか?」と訊かれ「いまからバスに乗るから20時ぐらいに着くかな」と答えると、店が終わったら話を聞かせてくれと言われた。


「じゃあ、ママにも休みが伸びたことを謝りたいから店が終わる頃に顔を出すよ」


「わかった。彼女にもそう伝えておくよ。気をつけてな」


 高速バスに乗り込む。そういやこっちの世界でこれに乗るの初めてだなと思った。

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