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結ぶと解く  作者: ながずぼん
第八章 逃亡編
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第139話 添寝と偽装

 道路の両端の森が途切れたところに川があるっぽい。暗くて川はぜんぜん見えないけれど、長い橋を渡る。すると開けた景色になる。建物もそこそこ見える。

 箱崎ほど密集しているわけではないけれどランプが次々で出てきてあちこちへ道が伸びるハブのような場所なのがわかる。おれたちもループするようにぐるりとランプを回る。少し行った先のガソリンスタンドへ車を入れる。今度は給油をするらしい。


 「トイレは…もういいですよね」と笑ってアドラさんは車を降りて行った。

 山の上の方を走っているときに24時間営業とおぼしきガソリンスタンドの灯りを見たとき彼女にエマージェンシーコールをして、眼鏡を掛けてダッシュした。トイレの借り方を英語で教えてもらったのだけど、なにしろエマージェンシーなのでコンビニのおじさんに股間を抑えながら「トイレ、プリーズ」と迫真の演技をすると「早く行きなさい」みたいなことを言われたので大惨事にならずに済んだのだった。

 ちなみにトイレから出てきたら「謝謝」とおじさんに礼を言っておいた。これでおじさんはおれのこと中国系だと思ったはずだ。ふふふ、スパイっぽい。


 アドラさんが給油を終えたら車を奥の方へ動かし、ヨハンソンにまた短い連絡をする。もう2時だ。彼も夜中に起きていて明け方に寝る生活になっているのだろうか。

 通話が終わったらすぐに出発する。しばらく郊外の雰囲気だったが、また川を渡った後は人の気配がなくなってしまった。たまに森の向こうに建物の灯りが見える。

 誰もいない場所と少しは人がいる場所を交互に通過していき、久しぶりにランプと立体交差が現れる。街が近いのかと思っていると、EXITと書かれた看板の方向のランプに入る。辺りはまだ暗いがそろそろ7時になる。


「目的地に着いたんですか?」


「はい。もうすぐです。着いたらNSAが管理している倉庫に車を入れて、明日の夜まで潜伏します。倉庫の中は寒いので車の荷室で寝ることになります。我慢してください」


「えーと、もしかして、アドラさんと一緒に寝るの?」


「はい?何か問題があるのですか?私は鼾をかきませんし、隣の人を蹴ったりするほど寝相も悪くないと思っています。それに寝つきは良いほうですし」


「あ、はい。なんでもないです。疲れたでしょうからゆっくり寝てください」


 ランプで違う名前の道に入ってからしばらく進むと左折して橋を渡る。

 ようやく空が白んできてけっこう広い川なのが見える。河川敷も含めるとかなり広いけれど、日本の河口に近い川に比べればそこまででもないかな。

 対岸に渡り、また左折をして進むと川沿いに倉庫群がある。そのうちの一つにシャッターを開けて車ごと入る。小さい事務所みたいな部屋以外はガランとしていてなにもない場所だった。ここで明日の夜まで潜伏するらしい。


 エンジンを切ると「では寝る支度をしてもらえますか」と言われ荷室に回る。

 断熱マットレスを二人分敷き、毛布を取り出してそれぞれのマットレスの上に乗せた。エンジンを止めたからヒーターは止まったがフリースの上着と厚手の毛布があれば寒さは凌げそうだった。


 ヨハンソンへ連絡を済ませたアドラさんが荷室にやってくる。マットレス同士の隙間を気持ち30cmほど空けておいたのだが「これでは冷気が上がってきます」と言って彼女はマットレスをくっつけた。いや、まあそうなんだけど。二組の布団がくっつけて敷いてあると余計にいやらしいあの感じがするじゃん!


 靴を脱いでマットレスの上に仰向けになり、全力で伸びをしてから彼女に背を向けるようにして毛布に包まった。「お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」そう言って目を閉じると「おやすみなさい」と声が聞こえた。


―――――


 悶々として眠れないと思っていたが、それどころではないと自覚していたのかすんなり眠れて、目が覚めて隣を見るとアドラさんがいなかった。運転席にもいない。車から出てみるとナンバープレートを交換しているところだった。まじでスパイみたいでワクワクが止まらない。おれも見習いスパイとして後学の為に見学させてもらう。


「おはようございます。追跡の対策ですか?ていうか寝れたんですか?」


「おはようございます。今日は州を跨ぐので交換しています。しっかり眠れました。30分ほど前に起きたところです」


 交換作業をしながらナンバープレートを交換する必要性について教えてくれる。高速道路だけでなく幹線道路にも監視カメラやALPRという日本のNシステムみたいなナンバーの読み取り機は設置されている。監視カメラの映像は警察やFBIが管理しているから細工するのは難しいが、ナンバー読み取りデータは時刻と位置のみなのでNSAの権限でリアルタイムでヨハンソンと彼の協力者が改竄しているそうだ。完全な隠蔽にはならないが追跡の時間稼ぎとしてはかなり有効のようだ。


「データの改竄ができるならナンバープレートを交換する必要なくないですか?」


「商業施設や駐車場の監視カメラは民間のものなのでCIAでもデータを入手可能になります。他州のナンバーで走り続けるのはルートが特定されてしまうので、ALPRと監視映像と両方で偽装して攪乱する必要があります」


 ナンバーの付け替えを終えた彼女はそう言って荷室から鉄塔?みたいなマークのマグネットシートを取ってきて、ボンネットのOHSというロゴの上に張り付けた。

 映画だと車体の色を塗り替えたりしているけど、実際の偽装はあっさりしていた。


 昨夜ウチヤマさんの奥さんから貰った紙袋が荷室にそのままになっていたことを思い出し、中身を確認するとサンドイッチが入っていたので、作業が終わったアドラさんに食べませんか?と尋ねると「状況確認をしながら食べましょう」と小さな事務所のような部屋へ入って行った。


 事務所の中にはアンプみたいな機械があって、アドラさんがそれを操作しながらインカムを渡してきた。ただ付ければいいだけのようなで耳に突っ込む。


 最後に話をしてからさほど時間は経ってないけれど、なんだか久しぶりに奴の声を聞いた気がする。

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