↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結ぶと解く  作者: ながずぼん
第七章 米国編
PR
124/254

第123話 分離と別離

 トランス状態になりパウラさんの中に入る。

 細い筋が無数にあって複雑な編み目になっている。筋の中を光が走っている。

 ここでサヨさんの声を見つけなければならない。パウラさんとは違う彼女の声。

 耳を澄ますイメージ。音が聞こえる。ラッパーが使うスクラッチ音に似た、クリュクリュした音。この中にサヨさんの声が混ざってくる場所があるはず。


 しばらくクリュクリュ音に耳を傾けながら細い筋を眺めていると、右前方でフラッシュを焚いたような眩しい光を感じ、そちらから吹奏楽団がキーを合わせるためにオーボエでB♭の音を出すように「ハーー」とサヨさんの声が聞こえる。

 そちらに注視すると筋の中の光が音の聞こえる方向から一定方向に走っているのが見える。ヨハンソンの話では、この流れを逆転させればいいということだったが、これに触れてもいいのだろうか。


 試しに光の粒に触れてみると、バシッと光って消えてしまった。

 さっきまで聞こえていたサヨさんの声も聞こえなくなってしまった。これは迂闊に触ってはいけないようだ。となるとあれの流れを逆転させるって…

 そこで一つプロセスを思い出した。結合点を解いてから逆転させるのだった。


 一定方向に流れていく先を辿っていくと、筋と筋が複雑に交差しているロータリーというかランドバウトのようなものが見える。これが結合点か?

 環状線を注視すると微妙に上下にズレた二重になっていて、内側の方が光の量が多く、外側の方がやや少ない。もう一度耳を澄ますと外側からサヨさんの「ハーー」という声が聞こえる。解く場所は特定できた。他にもあるのかもしれないけれど、とにかくこうなっている場所が結合点らしい。

 

 環状線の外側に接続している音の聞こえる筋を数えると32本ある。ひとまず1本の交差点に触れてみると、ヘロンと環状線から外れて、流れてきた光と一緒にコードが巻き取られるように奥の方へ引っ込んで見えなくなった。

 どこも消えたりしていないから、どうやらこれが正解らしい。残り31本を慎重に触れていく。最後の1本に触れたとき、内側のラインの光の量が増えて眩しかった。


 ひとまず現実世界に戻り、目を瞑っているパウラさんに声を掛ける。


『どうですか?サヨさんはまだいますか?』


 彼女が起き上がり目を開けると、ツーっと涙が頬を流れた。


『彼女はもうわたしの中にはいません。ただ、わたしの”妖精の居場所”の中に声は届きます。あなたに、ありがとうと伝えてくれと言っています』


『あなたから受け取ったものに比べたら小さな親切ですと伝えてください』


 パウラさんにそう告げると、目の前にパチンと小さな火花が散った。

 きっとサヨさんからのお別れのメッセージだったのだろう。


―――――


 パウラさんが落ち着くのを待って、彼女の帰り支度を手伝った。

 そのときに、空港で買った風呂敷に包まれたオイルを渡した。


『これ、なんとなく買ったものだけど、日本のこと思い出すかと思って』


『え、そう、ありがとう。なにか特別な意味があるのかしら?』


『いや、全くない。ただクロスの柄が素敵だなと思って』


『サヨにはあんなにロマンチックだったのに。私には雑なのね』


 彼女はクスっと笑って風呂敷包みをスーツケースに仕舞い込んだ。渡すときになにか上手いことが言えそうな気がしたのだけど、そんなスキルはおれにはなかった。

 空港まで送りましょうかと訊ねると、必要ないと断られてしまった。


『ごめんなさい。やっぱり私にとってあなたは恋愛対象ではないみたい。ただ恐怖は感じないから一緒にいることができるわ』


 パウラさんの顔で、ちょっと申し訳なさそうにそう言われたのが思いのほかダメージでかかったが、そうそうモテたこともないので気にしないことにした。


『サヨさんのためとはいえ、ありがとう。帰ったらしっかり身体洗ってね』


 そう言うとパウラさんは真っ赤になって『バカ!スケベ!』と叫んでいた。


 空港までは来なくていいと言われたもののせめてロビーまでは送ろうと思い、彼女のスーツケースをゴロゴロしてタクシーに乗るところまで見送った。


『新しい人生を楽しんで。おれもサヨさんもそう願っているから』


『ありがとう。あなたとあまり仲良くするとサヨがヤキモチを妬くかしら。ウルグアイに来ることはないと思うけれど、来るなら声ぐらいかけてね』


『もちろんそうするよ。それじゃ気を付けて帰って。ありがとうパウラ』


 走り去って行くタクシーを眺めながら、本当にこれで良かったのだろうかと少し思ってしまう。強い結びつきは時にしがらみのように絡まって身動きができなくなってしまう。サヨさんはそう感じたから解いて元に戻して欲しいと言ったのだろう。

 ただ、全部が自由になっていることが絶対にいいとは言い切れない。

 時には縛りがあったほうがいいこともあるはず。それがなんなのかわからないけれど、世の中ってそういうふうに出来ているとおもう。


 部屋に戻り功労者であるヨハンソンに連絡をする。


「ありがとう、おかげで無事に元に戻せたよ。説明が完璧だった」


「よかったですね。じゃあ今夜抱かれに行ってもいいですか?」


「いいって言うわけないだろ。でも本当に感謝しているよ。じゃあまた明日」


 そう言って追撃される前に通話を切った。

 身体では返せないけれど、この恩はどこかで返したいと思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。