表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結ぶと解く  作者: ながずぼん
第七章 米国編
PR
109/254

第108話 寿司と懇親

 教授が去ってしまったので1人で迎えの車に乗る。とはいえヨハンソンもミシュラさんも日本語で喋りかけてくれるので特に困ることはない。

 

 大晦日であるこの日は骨の検査と歯科検診だった。

 まず初めに骨シンチグラフィーという検査のための注射を打つ。なんでも放射性物質を身体に入れるらしい。レントゲン検査と同程度の被ばく量だそうでそんなに怖がらなくていいとミシュラさんに通訳してもらった。

 効果が出るまで時間がかかるそうなので、その時間を利用して歯科検診を受けた。

 結果は問題なし。虫歯はないが煙草のせいで歯が汚いと先生の評価を通訳してくたミシュラさんに笑われた。丈夫ならいいんだよ黄色くても…


 所定の時間が経過したので骨の検査の機械のある部屋へ行き、着替えを渡される。

 でかいCTみたいな機械とセットになっているベッドに寝ると、重いバンドのようなもので身体を固定される。チラっとヨハンソンを見ると、心配ないといったふうに何度か首を縦に振った。

 係員が撮影する機械ギリギリまでベッドを動かす。その後、機械がぐるぐる回り骨の様子を撮影する。モンテビデオで肋骨にヒビは入ったがとうの昔に完治している。


 着てきた服に着替え終わると、骨に異常はないとミシュラさんが教えてくれた。

 ヨハンソンに昼食はどうするかと訊かれたので、きょうは大晦日だし早く家族のところへ帰ったらいいと言うと2人とも独身の一人暮らしだというので、3人で港のところにある寿司屋に行くことになった。


 海外の寿司屋というと、カリフォルニアロールに代表されるこれじゃない感がすごいやつかと思いきや、普通に寿司屋だった。ラーメンとか炒飯もあるけれど。


「ワタシ、ニホンノ、スシ、ダイスキ、デス」


 握り寿司を食べるミシュラさんは珍しく機嫌がいい。あと2人とも箸の使い方がすごく上手い。おれが一番下手で恥ずかしいので握りは手で食べている。

 するとミシュラさんに「Left hand…」と微妙な顔で言われる。左手で食べちゃいけないんだっけ?と思っていると「彼女はインド系なので、左手は不浄の手なんですよ」とヨハンソンの解説が入る。ああ、なんか聞いたことがある気がする。

 「気になるなら右で食べますよ」と次からは右手で食べた。しっくりこないけれど味は変わらないし彼女が嫌な気分にならなきゃいいだけの話だ。


「Mr.ハナダ、アナタハ、トテモ、ジュナン?デス。ルックス、チガイマス」


「受難?ルックスが違う?え、どういうこと?」


「見た目は頑固者だけど柔軟だ、と彼女は言いいたいのでしょう」


「ソウ、ジュウナン。Adaptabe、デス」


「つうか、おれ頑固者に見えるの?そんな意地張ったことあったっけ?」


「彼女がそう思っているだけですよ。私はキュートに見えますね。特に笑顔が」


 40超えのおっさんつかまえてキュートて。それからお互いの印象を正直に言い合った。ミシュラさんはおれのことを「頑固者に見えるが話すと気さくだ」と言い、ヨハンソンは「物を知らないけれど勘がいい」と言った。なんかプラマイゼロみたいな評価だった。長所と短所は表裏一体ってことだな、うん。

 おれはミシュラさんのことを「美人なのにすぐ怒るし怖い」と言い、ヨハンソンのことを「腹は読めないがちゃんと目が笑っている」と評した。聞いた2人はお互いの評価をゲラゲラと笑っていて2人との距離が縮まった気がした。


「それで、2人はおれのこと、どこまで知っているの?」と尋ねてみる。「概ね」とヨハンソンは例の笑顔で言う。「誤魔化すのなし」と詰めると「この世界の人間ではない、と聞いています」と真面目な顔で答えた。

 じっとこちらを見ているミシュラさんに「力のことは?」と問い掛けると「power to solve」と言った。「ソーヴ?」意味がわからず復唱すると「解く、ですよ」とヨハンソンが教えてくれた。

 「なんだよ、全部知ってるんじゃないか」と笑うと場の緊張が解けた。


「アズマさんから、例の彼女の対になる力だと聞いています。彼女が電子を結合する力だとすれば、電子結合を解除する力だろうと推測しています」


 力の説明より日本語がすごい。前から思ってたけどこんなに喋れるものなのか?


「ヨハンソンの日本語って、もしかして異常な記憶の定着とかしてるの?」


「アハハ、それは違います。小さい頃、6年間日本に住んでいたんですよ」


「えっ、そうなの?親の仕事の都合とか?どこに住んでたの?」


「東京の広尾です。父がアメリカの商社の駐在員だったので」


「そうなんだ。ミシュラさんはいつから日本語が使えるようになったんですか?」


「ナツノ、オワリ。Mr.アズマ、カラ、アナタガ、アメリカ、クル、ト、キイテ」


「まじか!」3ヶ月で聞き取りも話す方もそこまでいけるんだ。頭の出来が違うんだろう。「対応してくれてありがとう」と感謝しても彼女は「Of course(当然です)」と流された。


「彼女は、管理職になる予定のエリートだったのです。私などと比べても格が違うほど能力が高いです。しかし事情があって現場配属になっています」


 ミシュラさんの表情が曇った。その事情ってのには踏み込まないでおこう。

 話せる内容なら彼女から教えてくれるだろう。


 思いがけず2人の身の上話が聞けた。おれに対する警戒や企みも感じなかったし、こちらにいる間はふつうに頼ってもよさそうだなと思った。

 ホテルまで送ってもらい「よいお年をお迎えください」と言って車を降りると、彼らは「よいお年を」「Have a great new year」と笑顔で返してくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ