第1話 クロニクル・ラインの虜
普通の高校生、片桐誠二の人生は、あっけなく幕を閉じた。
──その日までは、ただのゲーム好きの少年だった。
俺は放課後の帰り道、いつものように足早に家を目指していた。理由はただ一つ。
大人気RPG《Chronicle・Line》の最新拡張パックを、誰よりも早くプレイするためだ。
仲間を集め、勇者となって魔王を討つ王道の物語。
けれどこのゲームはただのRPGじゃない。緻密な伏線、魅力的なキャラクター、そして泣けるストーリー。
発売からすでに五百万本を超える売り上げを誇る名作に、俺はどっぷりと浸かっていた。
「早く続きがやりてえ……!」
胸を躍らせながら信号待ちをしていた、その時だった。
小学生の集団が横断歩道に差しかかる。
ふざけて走り出した男の子が、赤信号のまま道路に飛び出した。
「危ない!」
叫んだが、子どもには届かない。
そして――居眠り運転のトラックが、男の子に突っ込んできた。
考えるより早く、体が動いていた。
俺は少年を押し飛ばし、その瞬間、轟音と衝撃に包まれ……
──俺は、死んだ。
* * *
「レイン、おはよう」
耳に届いたのは、優しい女性の声。
目を開けると、ふかふかのベッドと、見知らぬ部屋。
……レイン? 誰のことだ?
訳も分からないまま食卓につかされ、腹が減っていた俺は出された洋風の朝食をむさぼる。
外に出て、池に映った自分の顔を見た時――ようやく理解した。
そこにいたのは、黒髪で大きな瞳を持つ幼い少年。
《クロニクル・ライン》で勇者パーティーの仲間のひとり、モブ扱いされる少年。
「……嘘だろ。俺、レインに……?」
空を舞う小さな竜。剣と杖を携えた人々。
目の前に広がるのは、画面の向こうでしか知らなかった世界。
「まさか……俺、《クロニクル・ライン》の世界に……転生したのか!?」