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世界の終焉、ボクと行先  作者: ふとん
ハロー異世界!
4/7

三話「これから」

「レオ……」


目の前の黒猫は狐につままれたようにぼうっとし、たった今付けられた自分の新しい名を呟いた。

その表情からは何を考えているのかが分からないが、晃瑠にとってそれはとてつもない不安を煽るものだった。その理由は単純明快。晃瑠は自分のネーミングセンスをよしと思っていないからだ。


「え、もしかして気に入ってない…!?俺捻り出したんだけど!?しょうがねぇ、もういっぺん別のを……」


「あー!違うよ!…そうじゃなくてさ」


「そうじゃなくて?」


晃瑠の言葉に否定をして、黒猫は続けた。


「今までつけられてきたどの名前よりいいなって思ってさ」


「え、じゃ、じゃあ合格か!?」


晃瑠は目をキラキラと輝かせて黒猫を見つめる。その姿は、とても高校2年生とは思えない程幼稚に見える。

黒猫は晃瑠の突然の距離感に少し戸惑ったが、直ぐに持ち直して笑顔を作った。


「うん、合格!いい名前だよ、ありがとう!」


「おっしゃあ!!」


「ふっふー♪褒めて遣わすぞ〜」


そう言いながら黒猫……否、レオはその小さくて可愛らしいもふもふの手で晃瑠の頭を撫でた。晃瑠はレオに「立場が逆だろ。」とからかった。

レオが撫でるのをやめて顔を合わせて微笑み合い、1秒ほどの沈黙が流れた。


「あ、お前のそうだった名前も決まった事だし、そろそろ今後のことを考えないか?」


その短い沈黙を破ったのは晃瑠だ。そう、晃瑠とレオには名前決めと同じくらい大変な問題が残っているのだ。この二人(一人と一匹)はこの世界に来たばかりなので一文無しなのである。


レオがこの世界に住んでいたのは1000年も前の話だ。レオの知り合いは皆、もう既にこの世にはいないだろう。そして、1000年の時を経て地形も生態系も変わってしまっているだろう。


「確かにそうだねぇ…ボクらは無一文だし……」


「おまけに知り合いのツテもない……もしや、これ終わった?」


「うーん…とりあえず魔力を頼りに集落でも探してみる?」


「魔力?それで見つけられるのか?」


「うん!」


「マジか…んじゃあ頼む!」


「任せてよ!」


そう言ってレオが目を瞑ると赤い光が薄らとレオの体を包み込んだ。晃瑠は目の前の非現実的な出来事に少し驚いたが、それはすぐに興味へと変わった。


「すげぇ……」


晃瑠がそう呟いてから数秒するとレオを包み込んでいた光は消えていき、完全に消えるとレオはゆっくりと目を開けた。


「どうだ?なんかあったか?」


「うん、向こうの山があるでしょ?あそこに人間の集落じゃないかなって感じの魔力を感じる」


「ん?()()()()()()()()()()()()ってどゆこと?」


「魔力探知はそこまで便利なものじゃないんだ」


「え、けど魔力探知で探せるって言ってたよな?」


「探せるけど、確実じゃないんだ」


「なるほど?」


晃瑠はどういうことだかさっぱり分からんという感じで腕を組んで首を傾げる。するとレオは少し唸ってから口を開いた。


「晃瑠は魔獣って分かる?」


「もちろんだ!ゲーマー舐めんな!」


「ゲーマーだったんだ…まぁ、なら話が早い」


そう言うとレオは魔法で炎を出した。その炎は形を変えて人間と怪物の形に変化した。


「おぉ〜!何だこれすげぇ!」


「ふっふー!でしょ〜!…と、そんなことは置いておいてだね…この絵を使って説明をするよ」


「おっす!よろしくお願いします!」


「生き物は必ず一定数の魔力を有してるんだけど、その量は生き物の種類によって違うんだ」


レオはそう説明をしながら器用に炎を扱って絵を作っていく。晃瑠は小さな子供が新しいものを与えられ、興味津々になっている時のように、すでにレオの話に夢中になっていた。


「人間は生まれた時から有している魔力量が少ないのと、最初の状態がバラバラなことで有名な生き物なんだ」


「そうなのか?俺の知ってるイメージだと人間でも大魔法使いとかになってるやつも結構ザラにいると思うんだけど……」


「うん、もちろんいるよ。だから()()()()なんだ」


レオは炎で三人の人間を形を作った。そしてその人間は大・中・小といった感じで纏うオーラが違う。


「こういう感じで魔力のスタート地点が人によって違うんだ。けど、魔力はどの生き物でも例外なく鍛えれば鍛える程限界値が上がるんだ」


「え、じゃあ俺でも鍛えれば使えるようになるのか!?」


「うん!鍛えれば鍛えるだけ増えていくし、コントロールさえ身につければ晃瑠でも1000年あれば今のボクと同じぐらいにはなるかな〜」


「セ、センネン……」


お世辞にも実現的とは言えない、気が遠くなるような年数。だが、晃瑠は少し前に不老不死となったのだ。もし晃瑠が鍛錬をせずに必要な時に魔法を使うだけだとしても、魔力量だけはどんどんと増えていく。

これは永遠を生きる者の数少ないメリットである。


「じゃあ、話を戻すよ。人間が特殊なのはまぁ、置いておいて…この世界の魔獣は元々強い種族だったりすると膨大な魔力を持っているからすぐに分かるんだけど……」


大きな魔獣を形作っていた炎は散り散りになり、小さな小動物へと形を変えた。

だが、その小動物達には角が生えている。


「こういう小さな魔獣は集団で狩りをするんだ。だからたまに人間じゃなくて魔獣の群れがいるところに着いちゃうことがあるんだ」


「はい!先生!」


「なんだね、晃瑠君?」


「魔獣の群れに突っ込んじゃった時はどうするんですか?」


「あぁ、その時はぼっこぼこのけちょんけちょんして、ご飯にするんだよ」


「こ、怖いっすせんせぇ……」


相変わらず見た目に反して過激的なことを言うレオ。

だが、そんな自信たっぷりのレオとは違い、晃瑠にはいくつか懸念点がある。


「…なぁレオ、お前ってどんくらい強いんだ?」


「え?」


「あーいや、お前の実力がないとは思ってねぇよ?俺のイメージだと魔力探知とかを使えるのってだいぶんレアキャラだし。けど、群れってことは多対一ってことになるだろ?もしそうなったら、俺は戦えないから戦力外だ。そん時に足手まといの俺を守りつつ戦うってのは……」


「多分余裕だし大丈夫だよ〜」


「無理なんじゃないか」と、そう言う前にレオは見栄を張るでも、晃瑠を安心させるためでもなく、本当に余裕そうにそう言った。


だが、それもそのはず。レオは魔法に関して、特に火属性の魔法には絶対的な自信を持っているのだ。


「だってボク、1000年前にこの世界に住んでた時は世界一魔法の扱いが上手いって評判だったんだからね〜!特に火属性の魔法は【爆炎の黒猫(こくびょう)】とか言われてたしね〜いやぁ〜懐かしい、懐かしい」


「ま、マジか…け、けど、俺の世界じゃあんまり魔法を使う機会もなかったろ?流石に1000年も使ってないとなまってるんじゃ……」


「人気のない森とかで使ってはいたし、ボクは見ての通り身体が小さいから他の動物に襲われた時とか、食べ物を確保したい時とかによく使ってたし、鍛錬は欠かさなかったから大丈夫!ボクに任せてよ!」


レオは自身の胸に小さな手をぽんとおいて自信たっぷりにそう言った。

【爆炎の黒猫】という異名には少々語呂が悪いなと思ったが、そこまで名を馳せていたというのなら実力は本物だろう。何より、晃瑠はパルクールが少しできるだけの高校生なのだ。もっとも、今はパルクールが少しできて、不老不死という呪いに等しい能力を持つ転移者なのだが。それでも晃瑠が魔獣という未知の生物に対して無力というのは変わらない。


「まぁそこまで言うんだったら俺はお前を信じて死地に足を突っ込むぜ」


「いくら不老不死でも、わざわざ突っ込むのはやめてね!?」


「ジョーダンジョーダン」


「今のは冗談に聞こえなかったよ…?」


「まーまー!んで、お前が見つけた集落はこっからどんくらいかかるんだ?2日くらい?」


「えーっとね…早くても2週間くらいかなぁ……?」


「……は、はあああああああぁぁぁあぁああぁあ!!!??」


だだっ広い草原に、またしても驚きを含んだ晃瑠の叫び声がこだました。

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