二話「お前の名は」
色々な感情を爆発させて、今世紀最大の大声で叫んだ晃瑠。目の前の黒猫は「マジです。」という顔を一切崩さずにこちらを申し訳なさそうに見ている。
「マジ…なんだな……?」
「マジ…です……」
晃瑠と黒猫の間に気まずい沈黙が流れる。
黒猫の方は申し訳ないという気持ちでいっぱいになっているらしいが、晃瑠の方は先程から衝撃的なことが起こりすぎているせいなのか逆に冷静になっているようで、すでに気持ちを切り替えて今後のことをどうしようかと頭を悩ませている。
ゲーム好きの晃瑠は「不老不死」という能力がどれほど恐ろしいモノなのかをよく理解しているからだ。
「不老不死」というのは一見すると死ぬこともなく老いることもないハイスペックチート能力と思われがちだが、仲良くなった人達との別れを、仲良くなった人の数だけ経験しなければならない。
だが、人との関わりを絶ったとしても永遠の孤独を味わわなければならなくなる。まさに地獄のような時間を永遠と過ごさなければならないのが「不老不死」という能力だ。
「お前、マジでやってくれたな……」
「本当にごめんなさい……」
「…いや、いいよ。お前は俺を助けようとしてくれただけなんだから。まぁ、困ることに変わりはないけどね……」
「あ、でもボクも不老不死ではあるから、君が永遠に1人になることはないし、そこは安心してくれていいよ。」
「え、お前不老不死なの!?」
「もちろん!というか、契約して与える能力を与える側が持ってないことって逆に問題だよ。」
「確かにそうか……」
黒猫は自分の胸に手をぽんとおいて少しドヤ顔をした。それに対して晃瑠はドヤ顔はするなと言いながら手刀で黒猫の頭を優しく叩いた。
話は戻って、晃瑠は黒猫も不老不死だということに驚いている気持ちもあるが、晃瑠の中には永遠の孤独を味わわなくてすむことが分かり、自室に帰ったような安心感を覚えた。
「……よーし分かった!ここはもう振り切ろう!」
「え?」
晃瑠は勢いよく立ち上がって黒猫の方に手を差し出し、笑顔を作る。
黒猫は何をしているんだろうという感じでぽかんとしているが、晃瑠は気にせず口を開く。
「俺の名前は鈴木晃瑠。高校2年生だ。これからよろしく、相棒!……で、お前の名前は?」
唐突な自己紹介に驚いたのか黒猫は停止してしまった。
だが、黒猫は一拍遅れて口を開いた。
「ボクの名前は……」
「…どうした?まさか歳重ね過ぎて忘れたとか?」
「……」
「おーい?猫〜?」
「あ、えと……そ、そう…だね…!歳重ね過ぎて忘れちゃったや。ボクってこう見えても1000年以上生きてるし!」
「はぁ!?1000年!?」
「そうだよ〜?と、いうわけで!契約の証っていう名目でボクに名前をつけてよ!」
「え、俺が?」
「もちろん。君以外に誰がいるのさ。」
黒猫はそう言って晃瑠の肩にちょんと乗り、毛ずくろいを始める。
一方晃瑠は名付けなどしたことがないので頭を悩ませている。気まぐれでネット検索をしまくっていた自分の記憶の引き出しから必死に良い感じの名前を捜索するが、猫を飼ったことがないため、猫の名前は晃瑠の引き出しからはどう足掻いても出てこない。
「こんなにネタが尽きることってある…?猫の名前で……?」
「もしかしてネーミングセンスない感じ?」
「自信はないけどゲームの知識なら任せてほしいですわ。なんかいい感じの名前を今ゲームのキャラから探してだな……あ……」
ゲームとは全く関係のないことだが、ふと名前占いのサイトのことを思い出した。
占いと言ってもなんとか診断とかそういう奴ではなく、結果一覧表みたいなものだったが、幸福を引き寄せる名前という欄の一番上に載っていたあのいい感じの名前を思い出した。
「よし、決めたぞ!」
「え、なんかさっきの反応を見てると不安になってきたんだけど……」
「お前から頼んだんだから、文句言うなよ?」
「もちろん言わないよ…?言わないけど……」
「あーあーうだうだ言うなって。お前は今日から……」
「ゴクリ……」
黒猫はセルフ効果音と共に息をのみ、晃瑠のことをじっと見つめる。
晃瑠はそんな黒猫に向けて指を指し、少しだけ格好つけて黒猫に命名をした。
「レオだ!」
晃瑠がそう言った瞬間、風が先程よりも強く駆け抜け、木々は揺れて演奏し、鳥達が一斉に飛び立った。
まるで自然が黒猫……否、「レオ」の存在を祝福するかのように。