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第2話 山を越えて

お目をとめていただきありがとうございます。


イグニスに行くために、険しい山を越えるイソラ。

 

 雲龍山は切り立った崖でできた山だ。

 すぐに道はなくなる。後は、ひと一人通るのがやっとの細い溝だけ。


「ーーうらむなよ、スズハ」

「うん……」

 何でも、うん、と言うように教えられているのだろう。腰にベルトを巻き金具を固定する。金具は丸いわかっかになっていてここに縄を通してふたりをつなぐ。スズハの縄をよく確認し、イソラは言った。


「落ちても引き上げるが、そんなにしょっちゅうは無理だぞ」

 武芸に秀でている自分だが、身体の細さから体力は少なめだ。


「ーーぅ……」

 崖の下から目が離せないスズハを庇いながら進む。続く緊張にスズハの顔が赤い。いきなり熱を出されても困るので、休憩をいれながら行くしかなさそうだ。 

 一瞬でも気を抜けば落ちる。

 高さがあがるたびにスズハの顔色が悪くなっていく。だんだんと地上が見えなくなるが、山の頂きは霞がかかり終わりがわからない。


 だが、ある程度安全な場所まで来て、小休止、と言うとスズハが首を振る。

「へいき……」

「そうか、スズハは根性がある」

 褒めると小さな男の子は笑顔を見せた。兄に似ているようなそうでもないような、いや、似てなくてよかった。










 絶壁との戦いは、二ヶ月続いた。だが、所々にあらわれる滝の水と、美味しい樹の実の恩恵があり飢えることはなかった。


 スズハは熱をだしたり、腹を壊すことが度々あったが、最後には細い道をためらわずに歩けるようにまでなった。足腰もはじめ見たときとは大きく違い、しっかりしてきている。


「スズハは一流の剣士より体幹がいい」

「たいかん?」

「そのうちに武芸を教えてやろう」

「うん……」



 山は雲龍山から、エオス山に名前が変わる。

 立て札を見たときにはイソラは大泣きをした。


 崖道ではなくなり、山道になる。ちゃんと道があるとはーー、ふたりは感動しながらくだっていく。





 そして、目の前に待ちにまった普通の道があらわれたときには大声で叫んだ。


 叫んでスズハを担ぎ、イソラは駆け出した。


「スズハ!ここはもう星藍国ではないぞ!」

「ーーう、うん……」

 スズハにはわからないだろうーー。イソラの胸は開放感で震え、道に出て景色をみまわしーー。


「はーー、広いーー」

 建物がない。

 畑ばかりが続く。


 畑のいたるところに大きな鳥がいるが、収穫物は大丈夫なのだろうか。

 



「スズハ見てみろ。地面が枯れたみたいな色だ」

「ーーうん。すな、だね」

「こういう土地なのだろうな。よし、ひとがいればいいが……。そろそろ温かい湯に浸かりたい」

「うん」

 スズハも大きく頷いた。






 畑はあるものの、ひとはいない。

 しばらく歩き、イソラはなぜひとがいないかに気づいた。

 鳥が、手の生えた大きな鳥は、畑の世話をしているのだ。

「……」

 その鳥が、草を取ったり、作物を収穫したり、袋に入れてどこかへ飛んで行く。

「はあ…、すごいな。農作業をするのは人間ではないのか……」

 しかし、建物がないということは休めるところがないということ。スズハを休ませてあげたい。

 

「水音……、川だーー」

 音を頼りに進むと下に川が見えた。土手をおりるとちょうど橋の下に日陰がある。

「スズハ、休憩しよう」

「うん」

 うれしそうにスズハがこくんと首を動かした。


「私は起きているから少し寝てくれ」

 スズハの目がすぐに閉じられ、自分にもたれたまま動かなくなる。よほど疲れていたのだろうーー、可哀想だがまだ横になって眠れる場所はなさそうだ。


「ピィー!」

 空を飛ぶ鳥が高く鳴いた。


「鳥は気持ちよさそうだな……」

 少しだけうとうとする。


 すぐに起きよう……。


















「OY!OY!」

 イソラは肩を突つかれ、はっと目を開いた。

「NNIMND!」

 見るからに兵士だ。

 自分達を囲み、棍棒(こんぼう)を突き出している。

 イソラは印を結んで言葉がわかる術を自分とスズハにかけた。


「失礼。あなた方は兵士か?」

 自分を囲んだ男達が顔を見合わせた。

「警備兵だ。あんたは何者だ?」

「異国民だな?どこから入った?」

 イソラは頭を下げる。

「許可なく国に入ったことは申し訳ない。私は星藍国のイソラ。我が国からイグニスに来るには雲龍山を越えねばならないので、そこからエオス山に入り、ここに来た」

「はっ?」

「ウンリュウザン?あんな山、越えられる者などいないだろう」


「越えてきた」

 困惑した兵士達にきっぱりと言い切る。


「……」

「連れて行くぞ」

「はっ!」

 警備兵の長らしき男の指示でイソラ達は移動を余儀なくされた。

「すまないが、身体には触れないでくれ」

「小汚さすぎて誰がさわるか」

 鼻をつまむ者もいるが、当然の反応だろう。


 橋の上には馬車があったのだが、引いているのは馬ではない。まるで巨大なトカゲだ。そのトカゲの脚の太さにイソラの目が丸くなった。

「ムーブドラゴンを知らんのだな」

「セイラン国とは、ド田舎なのだろう」


 そうなのか……。

 

 馬車の中に椅子はなく、そこは荷物置きのような板間だった。

「ひどい顔色だ。寝てもいいぞ」

「ーーかたじけない」

 耐えられなかったのだろう、「臭い」、と男が一言もらし、扉が閉められる。


 掛け声が聞こえ馬車が動き出した。

 かなり速いのに、不思議と揺れが少ない馬車だ。


 スズハがすぐに横になる。薄暗い空間にイソラも目を閉じーー。





最後まで読んでいただきありがとうございました。

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