第12話 イオス猛攻
お目をとめていただき、本当にありがとうございます。
「……」
「どうだ?言い訳なら聞いてやる」
イソラは苦笑した。
「そうだな。まずは軍の長という部分。星藍国の大将軍は王族からだすのが慣例だ。私の前が、叔父上だった」
「おまえは兄を差し置いて大将軍になったのだろう?」
「長兄は病弱であった。次兄は戦にでられぬ臆病者だ。王族の男子としてはあるまじき振る舞いだったがーー、ラディウス王子の初陣は?」
「はあ?なんでおれが戦なんかするんだよ」
ばっかじゃねえ、とラディウスが大笑いをした。
「なるほど、武勲を立てずともその地位にいられるとは、ぬるい国だ」
「ーー次は?」
「天幕の張れぬ地形では、皆雑魚寝で寝たが一カ所に集まりはしなかった。一カ所に集まるといざというとき全滅の恐れがある。
敵陣近くで兵士とふたりになることもあったが、すぐに戦闘に移れるようにはしていた。ラディウス王子は、敵の近くで余計な事に気を取られるほど大物かもしれぬが、私などはなーー」
必ずやり返される。
イソラの話しが進むほどに、ラディウスの機嫌が悪くなっていく。
「黙れ!口が減らぬ奴だな!あの子供も本当はおまえの子供だろ!嘘つきめ!」
「ーー嘘ではないが、証明するものもないのは事実ーー。だが、ラディウス王子にわかってもらおうとは思わないーー……」
イソラの身体が少しふらついた。
「ぷっ」
アモルがいやらしい笑みを浮かべる。
「やっと効いてきたのかよーー」
「遅かったですね」
胸を押さえたイソラを、にやにやと見るラディウスには、父親達の失望の表情は見えないのだろう。ため息をついて、フランマとウルスが俯く。
ウルスの真の心は息子への申し訳なさで一杯だ。だが、それでもラディウスには逆らうことができない。
ーーすまない。イオス……。
もう、一生許してもらえないだろうなーー。
「我慢するなよ。こっち向けよーー」
苦しそうなイソラを、自分の方に向かすためにラディウスは手を伸ばした。
「イオスより、気持ちよくしてやるからなーー」
「通せ!」
「なりません!」
イグニス王宮に着いたイオスだったが、兵士達によって行く手を阻まれていた。
「通してくれ!頼むから!」
懇願に兵士の顔が歪む。
彼らも自分の使命をまっとうしているに過ぎない。
「ーーすみません……」
「申し訳ありませんーー」
頭を下げられ、イオスは項垂れた。
「イソラ……」
歯を食いしばる、どこかに侵入できる場所がないだろうかーー。冷静でなければならないのに、焦りが思考を狭めてしまう。
「イオスーー」
背後にエンシスの声がした。
「ーーエンシス」
肩を叩く気配に、涙を拭いて答える。
「おまえなら、全員相手にできるだろう。嫁の為にやらないのか?」
エンシスの言葉に兵士が息を呑んだ。
「ーー彼らは悪くない……」
「ならば、どうする?誰にでも優しいのがおまえだが、いまはそんな場合か?おまえはこの国を敵にまわすほどには、嫁を愛していないのか?」
「エンシスーー」
彼の心が入った言葉に、イオスの気持ちが前を向いた。
「そうだねーー。そんなことを気にしてる場合じゃないーー」
剣を抜いたイオスに、兵士が青ざめる。
「安心しろ、医者を用意しておいた」
「致命傷はさけるよ!」
イオスは兵士のなかを駆けぬけた。目にもとまらぬ疾さの剣技に、誰も反応できるものがいない。道を塞ぐ者も剣を振るう前に、その剣を失う。
「あっ!腕ごめんね!」
傷をつけたことを謝りながら、イオスは制圧していく。兵士達の動きより、確実にひとつどころか、みっつよっつは先に動いている。
疾くしなやかな剣の動きに、誰もが道を開けるしかない。
「どいて!やるだけ無駄だからーー!」
すでに見えなくなった上官の戦う姿に、エンシスが唸る。
「さすがだーー」
まだまだ近付けそうにないーー、感嘆の声が自然にもれた。
「あんな、カワイイ顔して雷帝だもんね~」
アデアの剛腕が兵士を揺する。
「あんた達、自分で医務室に行けるなら行きなさいよ。動けないなら担いであげるから~」
「は、はいーー」
「いてー!速すぎだよーー」
「恨んじゃだめよ~」
念を押すアデアに兵士達が頷いた。
「わかってますーー!」
「我々は、大将を愛してますよー」
斬られた者も誰もイオスを悪くは言わない。そこが、あの優男の恐ろしいところだ。
「だがーー」
ラディウスがあのままではイオスはどうなるのだろうーー、エンシスは案じた。
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