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第11話 雷帝

お目をとめていただき本当にありがとうございます。

「ほら!あそこ~~!南の砦の防壁にぶつかっちゃうよ~~~!」

 ルチルの魔法の絨毯で、モンスターの発生地に来たイオスは空から敵を確認した。巨体ながら驚くほど速いスピードで、赤茶けたモンスターが大地を踏み鳴らし進んでいく。間違いなく凶悪種のレジェンドマンモスだ。

「ーー数が多いね」

「ねっ~!イオスしかダメでしょ~~?」


 防壁の前に自分を降ろすように指示をだす。


 迫りくるレジェンドマンモスの群れの前に、イオスは降り立った。ルチルがすぐに離れる。


 すう、イオスは息を深く吸った。


 身体が光りはじめる。


「ーー神の使いの雷獣よ、我が声を聞き我が力となりて敵を殲滅せよーー。大地よ叫べーー!ーー天雷ーー!!!」



 バァン!ッバババッーーン!!!



 白光の後に、恐ろしい音が響き渡った。聞いたものは、身を竦めて震えるしかできないだろう。



 光がおさまり、ルチルが耳を抑えていた手を離して状況を確認する。レジェンドマンモスは、焼け焦げて地面に横たわっていた。百を超えていたその群れを、イオスは瞬時に葬ったのだ。


「さっすが~~~!雷帝様~~~!シビれる~~~!

「味方がいると使えないんだけどねーー」


 イオスは魔法を使えるが、あまり役に立たないと思っている。彼の魔法は威力が強すぎるので、人間には使えない。その上、バリアの魔法も破壊してしまうため、敵と味方が混戦状態になると使用できない。


 味方がいない、強敵のみ、という条件のみで魔法を使える魔法使いなのだが、それが彼を大将という地位に縛り付けている理由だとは本人は知らない。



 魔法はどこから生まれるのかーー、誰もそれは考えた事がない。使える者は使えるし、使えない者は一生使えないーー、皆それぐらいの認識だ。イオスなど、ほとんど役に立たない魔法なら、なくてもいいと思っている。


「せっかくの貴重種なのに」

 イオスは残念そうに、焦げた群れを見た。レジェンドマンモスの肉は美味なため、高額で取り引きがされる。

「しょうがないよ~~、捕獲しようと思ったら何人かは死んじゃうし~~~」

「そうだけどね」


 早く決着がつき、自分しか戦わなくていいなら、それはありがたい話だなーー、と考えるイオスの背後でルチルが杖を振りあげた。


 ゴッ!


「うっ!」

 後頭部を殴られイオスはふらつく。踏みとどまりルチルを睨むと、彼が悲鳴をあげた。

「ウソ!倒れないの~~!?なんでなの~~!?みんな、助けて~~!!」

「ーールチル……」

「ごっめ~ん~~~!実はこのレジェンドマンモスの群れ、ボクがおびき寄せたんだ~~~!」

 悪気のない様子を見て、イオスの背中に冷たいものが走る。

「まさ、かーー」


「そのまさか~~~!あの異国人なら、いま頃ラディとエッチなパーティーの真っ最中だよ~~~!」

 キャハハ~~、と笑うルチルの側に、他の魔法使い達があらわれた。

「イオス様、雷ショック効かないしー」

「じゃあ、拘束魔法だねーー」


 四方向から鎖が飛んでくる。

 イオスは瞬時に鎖の弱い環を見極め、それを剣で斬り捨てる。そのままルチルに切っ先を向け、彼の喉元を狙って疾走った。

 すでにふらつくこともなくーー。


「ぎゃあ!ちょっと待ってよ~~~!ボクだってラディに脅されたんだよ~~~!」

「うるさい!絨毯を貸せ!」

「貸すよ~~~!だから、助けて~~~!」

 人質になったルチルが絨毯をだしながら命乞いをする。眉根を寄せたまま、イオスはルチルに指示をだした。

「急げ!」

「わかったよ~~~!ごめんよ~~~!」

 ルチルが泣く。見るからに嘘泣きだが、イオスは相手にしなかった。彼を押さえつけて帰路を急ぐ。

「もっと速く飛べ!」

「ムリ~~~!怖いよ~~~!」

「速く!!!」

「ひ~ん~~~!」




 飛び立った絨毯を見て、魔法使い達がつぶやいた。

「あーあ。だから言ったのにねーー」

「魔法使いなんかが、雷帝に勝てるわけないって」

「ホント、バカなんだからーー」



 

















 その少し前に、イソラはラディウスのいる炎の宮に呼ばれていた。イオスが任務に行った直後、潜んでいたウォロに連れて来られたのだ。


「イソラ姫、来てくれたのか」

 王子服をめかしこみ、上機嫌のラディウスが自分を迎える。

 前とは違う空間の広い部屋に通された。

 楕円形に石柱が広間を取り囲むように並ぶ。その細かい彫刻には、目を見張るしかない。星藍国では木の柱に彫刻をほどこすのが主流だったが、やはり石のほうが手間と時間がかかるだろう。

 天井には羽根が生えた赤子の絵画。


 そんな生き物がいるのかーー。



「座れ」

 長い机を指さし、ラディウスが言った。その机には先客がいて、威圧感がある初老の男がふたりと、若い女性がひとり座っている。皆、表情が固く、お世辞にも歓迎されている空気ではないがーー。


「今日は食事に付き合え」

 ラディウスの言葉に、ウォロが笑いだす。

「イグニスの食事には慣れたか?あいつの家じゃ食えないようなものを食べさせてやるからな」

 吹きだすアモルが、給仕に指図する。


「肉は好きか?」

「あまり、馴染まないな」

「星藍国には肉がないのかーー」

 くすくす笑うと、ラディウスは男達に顎を向けた。


「紹介する。中央にいるのが、おれの父イグニス国王フランマ、左にいるのが叔父のフェデス大公ウルス、右がおれの側女ウェルだ」

 イソラは興味深く三人の様子を見る。


「私の義父のフェデス大公ウルス様には前にお会いした」

 その言葉を聞いて、ラディウスが眉間にしわを寄せた。


「ーー私はこの結婚を反対した。イオスにとって何の意味もない」

「そうだ。イオスにはきちんとした姫を紹介しようーー」

 ラディウスの顔色を見ながら国王達が口を開く。機嫌を損ねたくはない、見ていてそれがありありとわかる。


「何故だ?」

 尋ねると、ウルスが目を見張った。

「言った通りだ。おまえはラディウス王子の目にとまった。身に余る幸せだよ、息子の事は忘れなさい」

「ああ。ラディウスと結婚するために、遠くから来てくれたのだろう?よかったなーー」

 ふたりの意見にラディウスが言葉を続ける。

「そうだな。おまえはおれのために、この国に来たんだから、これからはおれに従えよ」

 王子様がうれしそうな顔で、グラスに酒を注いだ。


「飲めよ」

 すすめるその顔が、醜悪な魔物のようにも見える。

「いただこう」


 部屋にいる者が、皆自分に視線をそそぐ。誰もが興味深く、この余興に見入っている。


「ーーなあ、イソラ。おまえの兄が送ってきた書簡に書かれていることは、すべて間違いなのか?」

「兄の書簡ーー」

 ラディウスの指示に、アモルがイソラの前で書簡を広げた。

「ほら、これだよ。おまえがこういう人間だということが書いてあるーー」

 


『親愛なるイグニス国の王子よ。


 我が国星藍ではある王族に頭を悩まされている。その王族とは、藍イソラ、イソラ姫と呼ばれる私の兄弟だ。

 これの大変なところを記しておく。


 その一、王族という身分を傘にきて軍の長、大将軍につく。


 その二、兵士達とのあやしい関係。一夜をともにすること星の数。


 その三、誰の子かわからぬが子がいる。


 このイソラ姫をどうかそちらで引き取っていただきたい。

         星藍国王 イルハ 』





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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