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⑨運命の選択

⑨ 運命の選択


「扉は3枚。そのうち1枚は入ってきた扉だ。その扉を開けてはいけない」

「そうね。でも、残るは2枚の扉。どちらを選んでもいいのかしら」

「それはわからないな。言えることは、少なくとも入ってきた扉だけは選んではいけないということだ」

 3枚の扉をじっと眺めていて、春菜が叫んだ。

「あっ。この扉見て」

「どうしたんだい」

「まわりが濡れているわ」

「そうか。外は雨だったからな。これが入ってきた扉か」

 不意に春菜の携帯が振動を始めた。

「あら、やだ。また、ブルッてる」

「博士からか」

「見てみるわね」

 予想通り、博士からのメールであった。

『きっと、きみたちは何かを選択しなければならない状況に陥っているはずだ。なぜならば、メッセージの主はきみたちをメッセンジャーとして適任者であるかどうか試す必要があるからだ。さすがに記述式試験はしないだろうから、ある条件下のもとで君たちの対応を見ることにより適正を試すと考えられる』

「すごいわね、博士って」

「ああ。いい人物を協力者に選んだってことだ。博士に会っておいて良かったな。二人だけなら、とっくにパニッってるだろう。で、続きは?」

『もちろん選択肢の中に正解はあると思われるが、注意してくれよ。いろんな罠がしかけてあるだろうからな。実際にはどんな問題に遭遇しているかわからないから、はっきりしたことは言えないが、最初に直感で思い浮かんだ答えは、まず不正解と思って間違いない。では、がんばってくれたまえ。また、連絡する』

「ねえ、幸四郎。この外枠が濡れている扉は違うってことかしら」

「そんなはずはないだろう。俺たちは雨に降られてここへやってきた。外は雨だった。つまり、濡れている扉が正解ってことだろ」

「ちょっと、待って。床を見て」

 薄暗い中、幸四郎は扉から床へ目を移した。

「おや。この濡れている扉の下にはマットが敷いてあるな」

「こっちの扉の下は、新聞紙よ」

「最後の扉の下には何もないな」

 3枚の扉の下には、マット、新聞紙、何もなしとそれぞれ違っていた。

「この新聞紙濡れていないわね」

「じゃあ、俺たちが入ってきたのはこの扉じゃないな。やっぱり、この外枠の濡れている扉だろう」

 その扉の下には布製のマットが敷いてあった。

「このマットが濡れていれば決まりね」

 そう言いながら、春菜はマットをそっとさわった。

「これで、一つ消えたな」

「待って!濡れていない」

「そんなバカな。乾いたんじゃないか」

「それに見て。何も敷いてない扉の下にわずかばかりの靴の跡が見えるわ」

「どれどれ。ほんとだ。消えかかってるけど、こっちの跡は俺の靴のものだ」

「こちらは私の靴跡よ」

「俺たちは、この扉から入ってきたんだ」

 二人が入ってきた扉はわかった。あとは、残る2枚のうちどちらを選ぶかという問題が残っている。

「残るは2枚ね」

「ああ、二つに一つだ。何かの選択基準が必要だな」

「そうね。論理的根拠がほしいわね」

 外枠が濡れていて下にマットが敷いてある扉か、それとも新聞紙が敷いてある扉か。どちらかに正解はあるはずだ。

「わからないな」

「ええ。わからないわ。博士からのメール来ないかしら」

「そんなに都合よくは来ないだろう」

「一人ずつ、別々の扉へ進みましょうか。どちらかは正解よね」

「だめだよ、春菜。それは、どちかは不正解ってことだろ」

「でも、必ず一人は正解よ」

「まだまだ難問が続くだろうし、こんなところでフィフティフィフティを使っちゃだめだな」

「なにそれ。クイズミリオネアみたいね。じゃ、ここはオーディエンスかしら」

「ここに観客はいないよ」

「そんなあ、不利じゃない」

「そのかわり、4択ではなくて3択だ」

「そうか。あながち不利とも言えないわね」

 こんなときでも冗談が言える二人。余裕があるのか、天然なのか。それとも、それがメッセンジャーとしての資質なのだろうか。

「いいか、春菜。整理してみるぞ。俺たちは、最初外枠の濡れている扉から入ってきたと思った」

「そこで博士からのメールが届いたのよね」

「ああ、そうだ。いろいろな罠が仕掛けられているというヒントを得た。そこで、よくよく見ると、靴跡を発見した。入ってきた扉がわかったんだ」

「でも、残る2つの扉のうちどちらが正解の扉かがわからないのよね」

「そこだ。この問題は、入ってきた扉を見つける問題じゃない」

「そうよ。出るべき扉を見つける問題よ」

「だろ。罠を仕掛けるとしたら、どうする春菜」

「そうか!正解の扉を選択肢から外させることを考えるわ」

「その通り。俺たちは、最初に外枠の濡れた扉を選択肢から外そうとした。この扉を外してしまうと、残る扉に正解があった場合、正解する確率は50%。偶然正解してしまう場合もある」

「それでは、罠とは言えないわね」

「そうさ。最初に選択肢から外そうとした扉が正解であったならば、残る扉が正解である確率は0%。つまり、どちらを選ぼうが確実に不正解を選ばせることができる。これこそ、罠というのにふさわしいんじゃないかな」

「ということは、外枠が濡れている扉が正解ってことね」

「俺なら、そうする」

「どうする、幸四郎。ファイナルアンサー?」

「ああ、ファイナルアンサー。行くしかないだろう」

 二人は、扉の外枠が濡れている扉を選択した。



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