⑧メールの差出人
⑧ メールの差出人
「電話か?」
「いいえ、メールみたい」
「いったい、誰から」
「ちょっと、待ってね。差出人はと。やだ、博士じゃない」
「早く、見てみろよ」
『このメールが届く頃には、君たちは3通めの手紙を手にしていることだろう。しかも、我々の世界とは異次元の世界に迷いこんでいると思われる』
「博士って、私たちがこうなることを知っていたみたいね」
「メールなんて使わずに、電話してくればいいのにな。続きは何て書いてあるんだ」
『電話をしたいのはヤマヤマだけど、つながらない。次元のひずみにブロックされてしまっているようだ。音声はつながらないけど、画像は送れるようなんだ』
「ねえ、幸四郎。音声が伝わらなくて画像だけ伝わるなんてことあるのかしら」
「そんな話、聞いたことないな」
『そんなバカなと思っているだろうけど、こんな経験はあるだろう。テレビの海外中継で、画像だけ見えてて音声がつながらないことがあるだろう』
「まあ、博士ったら何でもお見通しね。でも、それなら経験あるわ」
「俺も何度か見たことあるな」
『原理は同じようなことで、通信電波が微妙に違うのが原因だ』
「でも、これで心強くなったわね。博士がいれば何とかなるんじゃない」
「そうだな。さっそく、返信しようぜ」
「ちょっと、待って。まだ、何か書いてあるわ」
『でも、浮かれてはいけない。こちらからの電波は増幅したものを送信しているため君たちのもとへ届くが、君たちの携帯からの電波はキャッチできない。つまり、交信は一方通行となる。ぼくの推理がどれだけ当たっているか、君たちの理解力がどれだけあるか。メーッセージの送り主との戦いはここからが本番となる。まずは、第3の手紙を良く見てくれ。そこには、戒律と術に関する記述があるはずだ。そして、そこには君たちが元の世界へ帰る方法が書かれているはずなんだ。また、連絡する』
「まいったな。交信は一方通行か」
「無いよりマシよ。それに、私たちのこの状況を知っててくれる人がいるってだけでも、いいんじゃない」
「それもそうだな。じゃあ、謎解きでも始めるか」
「来た道を戻ろうとしても帰れないってことよね」
「ああ、普通の人は必ず来た道を帰ろうとする。その時点で、すでに間違っているわけだ」
「そうね。帰るためには、秘密の扉を見つけなければならない。秘密の扉って何かしら」
「おそらくは、元の世界とこの世界をつなぐ時空の扉なんだろうな」
先ほどまでの土砂降りが収まったのか、壁の隙間から日差しが入ってきた。
「あら、やんだのかしら」
「外に出てみよう。おやっ」
「どうしたの、幸四郎」
「こんなところに、扉なんてあったっけ」
「ちょっと、待ってよ。こっちにもあるじゃない」
「扉は全部で3枚。俺たち、どの扉から入ってきたんだ」
「入ってきた扉を選んでしまうと、俺たちは永久に帰れなくなるってことかな」
「どうしよう、幸四郎」
「どれが、秘密の扉なんだ」
二人は、3枚の扉を前に立ち尽くすのであった。