⑦3通めの手紙
⑦ 3通めの手紙
博士に協力者をお願いしようと思っていたが、それは博士にとって推測されていたことであった。博士も快く協力してくれることになり、封筒に新たな変化が起きたら教えてくれということでその場を別れた。
「よかったな、春菜」
「ほんとよね。博士も協力してくれるって言ってくれたし」
「せっかく頂上まできたんだから、向こう側に降りてみないか」
二人は、この裏山の反対側には行ったことがなかった。
「でも、ここから上は立ち入り禁止よ。幸四郎登ったことある?」
「いや。子どものころから、ここだけは登るなって言われている」
「やっぱり。でも、変よね」
「ああ、確かに変だな。絶対に登るなと言われているだけで、頂上に何があるとか、なぜ登っちゃいけないかというのは聞いたことがないな」
「入っちゃいましょうか」
「ああ、確かめてみる必要がありそうだな」
二人は、禁断の領域に足を踏み入れる決意をした。昔からの言い伝えで、山の頂上に登った者は帰ってきた試しがないという。今まではその言い伝えを疑いもせず盲目的に信じ、小学校に入る頃には話題にもならなくなっているぐらいタブーの領域なのだ。
しかし、今朝からの不思議な出来事と何らかの関連があるのではないかと、二人の直感は一致したのであった。
二人は立ち入り禁止の古びたロープをかいくぐり、さらに山を登り続けた。禁止区域を登り続けること30分。ついに頂上に上りつめた。
「ここが頂上か」
「こちら側の景色とはずいぶん違うわね」
「そうだな。山の向こう側には、建物が全然なさそうだな」
「建物どころか、霧がかかっていてよく見えないわね」
「うわ、やばいぞ。ここら辺も霧に包まれてきた」
「どうしよう。私たち帰れなくなっちゃう」
「落ち着くんだ、春菜。こういうときは動いちゃだめだ。それにしても、一時避難する場所がほしいな」
「あっ。あそこを見て、幸四郎。小屋じゃない?」
山の向こう側の少し下ったところに、怪しき建物が見えた。
「こりゃ、いけない。雨まで降ってきやがった。春菜、良くても悪くてもあそこに避難するしかなさそうだぞ」
「そうね、行きましょう」
二人は、怪しげな小屋に向った。
「なんとか着いたぞ」
小屋の中は薄暗く、ところどころにくもの巣があったが、とにもかくにも雨風だけはしのげた。
「ねえ、幸四郎。懐中電灯持ってない?」
「そんなもの学校に持っていく奴はいないって言っただろう」
「でも、今光ったわよ」
「ってことは、もしかすると封筒に新しい手紙が届いたのかもしれないな」
「そうね。携帯でも、メールを着信すると光るものね」
「でも、この暗さじゃ見えないな」
「あら、こんなところにランプがあるじゃない。幸四郎マッチない?」
「秘密基地のローソクをつけるために、ライターだけはいつも持ってるぞ」
「はやくつけてよ」
「よし。どうだ」
「ついた、ついた」
「オイルは入っていたようだな。じゃあ、手紙を見てみよう」
「私のから見るわね。わっ、入ってる。3通めの手紙よ」
「どれどれ。なんて書いてあるんだ」
*** 山を降りるには、来た道を帰ろうとしてはならぬ *****
「なに、これ。じゃあ、どうやって帰れっていうの」
「俺の方はどうかな」
*** 秘密の扉を見つけること それがすなわち術の第一歩 *****
「幸四郎。どういうこと」
「うーん。わからないけど。これだけは言えそうだな。春菜の手紙は何々するなという戒律の一種。俺の方は何々しろという術の一種ということだろう」
幸四郎には、だんだん見えてきた。手紙の主は二人がメッセンジャーにふさわしいかどうか試しているんだと。
「私たち、どうなるのかしら」
「きっと、試されているんだ」
「試す?何を」
「メッセンジャーとしてふさわしいかどうかさ」
「もし、ふさわしくないと判断されたらどうなるの」
「おそらく、言い伝えのように元へは戻れない」
「どういうこと?」
「やはり、ここは別世界。普通の人は着ちゃいけないところなんだ」
「言い伝えどおり、立ち入ると帰れなくなるってこと?」
「ああ。多分そうだ」
「やだあ。もう帰れないの」
「いいや。俺たちには、この手紙がある。俺たちがメッセンジャーとして認められたなら、きっと帰れる」
「そうか。どうやら、私たちに選択肢はないようね」
「そうだな。帰るためには、自分たちで手紙の謎を解き、メッセンジャーを引き受けるしかなさそうだ」
「博士もいないのに、私たちだけで解けるかしら」
ブルルルッ、ブルルルッ。
「おい、春菜。おまえの携帯ブルってるんじゃないか」
「やだ。こんなところへ、電波通じるの?」
春菜は、おそるおそる携帯を手にとった。