⑤博士の実力
⑤博士の実力
「博士って、うちはどこなんだろう」
「そういえば、お父さんがこの裏山で発掘作業をするとかしないとか行ってたわね」
二人は、学校で博士が紹介されたときのことを思い出していた。
「ってことは、この近くに発掘現場があるってことだよな」
「そうね。でも、ここからはそんな現場らしきものは見えないわよ」
「山のこちら側から見えないならば、向こう側にあるってことだな」
「最近トラックをよく見かけるけど、何か関係あるのかしら」
「よし。行ってみるしかなさそうだな」
「そうね。行ってみましょう」
さっそく二人は外に出た。4月になったとはいえ、樹木に覆われている山は肌寒い。山の頂上まで登れば、向こう側が見えるはずだ。歩くこと30分。
「もう少しね、幸四郎」
「結構きついな。あれっ。あんなところに小屋がある。あんなものあったっけ」
「知らないわよ。それに、まだ新しそうじゃない」
頂上間近というところで、大きな樹木に隠れ、その小屋はひっそりたっていた。
「まさか、あれが発掘現場ってこともないよな」
「とにかく、行ってみましょう」
二人は小屋に向かって小走りに近寄った。
「あっ」
突如、小屋の中から一人の人物が出てきた。
「あの子、博士じゃない」
「こんなところに住んでいたんだ」
目の前に現れたのは、同じクラスに転校してきた博士であった。博士は驚いている風もなく、なぜこんなところでクラスメイトに会うのか、まるで予知でもしているようであった。
「やあ、きみたち。やっぱりここに来たんだね」
「やっぱりってなんだよ」
「きみたちは必ず来ると思っていた」
「何ですって」
「なぜならば、学校でのきみたちの態度から察するに、いつもとは違う何かが身の回りに起こっていることは想像に難くない。そして人目を避けるように、幸四郎くんはポケットの中を述べ15回、春菜ちゃんはかばんの中を12回のぞきこんでいた。そのうち、幸四郎くんのポケットの中で怪しい光が少なくとも3回、春菜ちゃんのかばんの中では2回光っているのを確認している。そして、幸四郎くんのポケットから封筒の切れ端が見えた。二人の持っている怪しく光る物体は、おそらく封筒であろう。そして、二人の落ち着かない態度から察するに、封筒の中身は理解しがたいもの、常識の範囲を超えた謎の手紙が入っているはずだ。ならば、その謎を解ける人物を探そうという話になるだろう。ところが、同じクラスの中にはそんな話をできそうな適当な人物は見当たらない。少なくともぼくには見当たらなかった。そして、幸四郎くんのズボンのすそに付着している草は、春菜ちゃんのスカートに付いている草と同じだ。二人は今日遅刻してきたが、それは同じ場所から来たことを意味する。しかも、その草は割とめずらしい草でね。この辺では、この裏山にしか生息していない草なんだ。つまり、二人は学校へ来る前に、この裏山にいた。そして、学校が終わってからも裏山に行く。なぜならば、そこには平日学校をサボっていても怪しまれないような、隠れ家的場所が存在しているからであろう。そこで、二人は謎解きを始める。しかし、朝の表情よりも複雑になっているところを見ると、おおかた謎が増えたといったところであろう。これはもはや自分たちの手にはおえない。協力者が必要である。そこで、転校生であるぼくを思い出したんじゃないかな。まだ、今日会ったばかりで
どこまで信用できるかはわからないが、他に手立ても考えられないし、親が考古学者ということを考えても謎解きには興味を持っているだろうし、多少の知識も持ち合わせているだろうと考えた。でも、きみたちはぼくのうちを知らない。知っている情報といったら、親が裏山で発掘調査を始めるということぐらいだ。探すとしたら裏山だ。頂上からなら裏山を一望できる。そこで発掘現場に行き、あわよくばぼくの親から居所を聞きだそうということではないかな。そして、頂上に行く道はこの道しかないんだ。この道を通れば、小屋に気づく。だから、きみたちは必ず現れると思って待っていたんだ」
「おい、春菜」
「すごいわね」
「こりゃ、本物だ」
二人は、博士を協力者にすることに決めた。