④増えるメッセージ
④ 増えるメッセージ
秘密基地に着いた二人は、さっそく封筒を取り出した。
「どうでもいいけど、メッセンジャーって何するんだろうな」
「そうね。なんて書いてあったっけ。もう一度見てみましょう」
「そうだな。おやっ」
「どうしたの、幸四郎」
「中身が2枚になっている」
「朝から入っていたんじゃない」
「いや、確かに朝は1枚だったはずだけど」
「いいから、開いてみて」
「ああ。これは、1枚目だな。術メッセンジャーに任命するって書いてある」
「じゃあ、2枚目は」
「どれどれ。これもあぶり出しか。あっ、何か書いてある」
「なんて書いてあるの」
「ほら、見てごらん」
*** まやはならにぞうあり *****
どうやら、手紙の続きのようである。
「マヤは奈良に象あり。なんのことだろう」
「マヤってマヤ文明のことじゃない。マヤ文明と奈良に何かの共通点があって、そのキーワードが象ってことじゃないかしら。私の方にも何か入ってるわ」
春菜の封筒にも2枚めの紙が入っていた。
*** いったいいまはじゅひょうとめしつり *****
「一体今は樹氷と飯釣り。どうも何かの暗号のようね」
「俺の方には場所を指定する語句が入っているから、春菜のにも入ってるんじゃないかな」
「そうね。一体って、あたり一体ってことかしら。そうか、まわりが樹氷で囲まれているほど寒いところで、飯釣りっていうと飯になるものを釣っているということだから、山中湖じゃないかしら」
「北海道の湖ならたいてい凍ってるんじゃないかな」
「それもそうね」
封筒の中身はどうやら暗号のようである。しかも、1枚だった紙は今は2枚。まるで、手紙のようである。
「ねえ、幸四郎。これって、私たちへの手紙なんじゃないかしら」
「誰から」
「それはまだわからないけど、私たちに何かしてほしいんじゃない」
「うーん。謎だらけだな」
実際、今日の出来事は不可解だった。朝起きたら、春菜と幸四郎に光る封筒が届いていた。中身は一枚の紙切れ。戒律だの術だののメッセンジャーに任命すると書いてある。そして、今度は2枚目の手紙。わけのわからない言葉。今のところの手がかりはこんなところだ。
「なあ、春菜」
「なあに」
「この手紙、これからも続くんかな」
「続くんじゃないかしら。どうみたって、完結しているようには見えないもの」
「だよな。だとしたら、何らかの対策が必要だな」
「どんな?」
「俺たち二人で考えていても、解決できそうにないだろ。3枚目の手紙もきっと来る。そして、それもおそらくは解読不能の手紙」
「そうね。怖いって感じはしないけど、何かを頼まれているような気がするわね。しかも、セキュリティがかかっていて、ほかの人に見られてもただの紙きれにしか見えない」
「そうか。セキュリティのための暗号か。それにしても、伝えたい俺たちに伝わらないようじゃ意味がないな」
「困ったわね。幸四郎、暗号解読の得意な友達いないの」
「そんな友達は…」
幸四郎は身のまわりの友達を思い浮かべた。スポーツだけ得意な奴、バイトばかりしている奴、自宅から2時間自転車で学校に通う奴、大食いなら誰にもまけない奴…。
「どう、いる」
「ロクな奴がいない。春菜の友達はどうなんだ」
「そうねえ…」
春菜も友達を思い浮かべてみた。おしゃれに詳しい子、バーゲンの日時場所にめちゃ詳しい子、安くておいしい食べ物屋さんに詳しい子、お料理が得意な子…。
「どうだい、誰かいそう」
「ダメねえ。みんなそれぞれ特技を持ってるんだけど、頭を使う系には縁がなさそうね」
二人とも体を動かすのは得意だが、頭を使うのは苦手である。類は友を呼ぶもので、友達も勉強が趣味とか、インターネットおたくとか、クイズを解くのが大好きとか、そういった友達はいなかった。
「そうだ。今日転校してきた博士なんてどう」
「あいつなら、ピッタリだ」
本人の同意を得る前に、この謎解きの協力者は博士しかいないと、二人の直感は一致したのであった。