第24話 継承者
第24話 継承者
「きみたち、合格だね。幸四郎くんが落としたライターはここにある」
「なんだって。どういうことなんだ」
「きみたちは、メッセンジャーとしての様々な試験に合格した。我々はきみたちを真のメッセンジャーとして改めて任命させてもらう」
「博士。どういうことなの。博士もメッセージの謎を探っていたんじゃなかったの」
「ごめんね、春菜ちゃん。きみたちを試していたのは僕だったんだ」
「なぜ、そんなことをするんだ」
「現在、人類には滅亡の危機が訪れている。その昔、古代マヤ文明は栄えていた。平和なマヤ王国は、いくつもの術をあみ出した。しかし、術とは危険なもの。使い方を間違えば自分たちにも危険が及ぶという諸刃の剣。そこで、術の伝承者は代々決められた者だけに受け継がれてきた。ところが、永遠に繁栄すると思われていたマヤ文明にも終焉の時がきた。そこで、術の伝承者があいまいになってしまった。本来、知ってはならぬ者へ情報が漏洩してしまった。それでも、正統的伝承者はできる限り術がもれぬよう努力した」
「現代にも受け継がれている術はあるんかい」
「ああ。正しく受け継がれているものもあれば、間違って伝わっているものもある。医学や科学のほとんどはマヤ文明に確立されたものだ。呪術や祈祷なども開発されていた」
「確かに悪い人が使ったら、危険よね」
「でも、おれたちに何をさせようってんだ」
「きみたちに、術の善悪を判断してもらいたいんだ」
なんと、幸四郎と春菜に課せられたのは術の事業仕分けであった。
「そんなあ。今まではどうしていたの」
「今までは、マヤ文明の子孫である僕たちが、何とか防いできた」
「これからも、頑張ってくれよ」
「ところが、マヤ文明は2012年に終焉を迎える。これは、決定済みの事実なんだ」
「博士。どういうことなの。人類が滅ぶっていうことなの」
「人類が滅ぶかどうかはわからない。ただ、マヤ文明の子孫は、その年にいなくなるということだ」
「もしかして、博士はマヤ王国の正統的継承者なのかい」
「そんなことはどうでもいいじゃないか。ただ、言えることは、2012年までに私の継承者を見つけなければならないんだ。マヤ文明は終わりを告げる。これからの人類を救えるかどうかは、次の継承者にかかっている」
「そんな、無理よ。私たちにそんな大役は務まらないわ」
「よせ、春菜。博士は、何人ものメッセンジャー候補から、最終的に選んだのが俺たちなんだ」
「その通り。それに、もう時間がない」
「まだ、2年もあるじゃない」
「きみたちは、メッセンジャーになりうる資格を持っていることがわかった。しかし、真のメッセンジャーになるには素質のあるもので、最低2~3年の修行が必要だ。もう期間がないんだ。もちろん、修行は強制的なものではない。受けるかどうかはきみたち次第だ」
「どうする、幸四郎。なんだか大変なことになっちゃってるみたいだけど」
「ああ。博士、もしも俺たちがその修行を受けなかったらどうなるんだい」
「われわれには、術とともにそれを抑制する戒律という力がある」
「そうか。術は正しく伝承されなくても、使われる心配はないということか」
「そう。2012年まではね」
「どういうことなの、博士」
「戒律の力が及ぶのも2012年までということさ。人類の歴史が2012年で終わるのか、それ以降も続くのかは、きみたちの決断にかかっている」
「残り2年の修行で、必要なことを身につけられない場合にも…」
「そう。人類は遠からず滅びることとなる」
「どうする、幸四郎」
春菜は決断を幸四郎に任せようと思っていた。幸四郎が決めたことなら、どんなことにも従うつもりである。わずか一日足らずの共有する時間が、二人の絆を限りなく深めていた。
「決まっているだろ、春菜。こんな面白いことはないじゃないか。せっかくメッセンジャーに選ばれたんだ。やってやろうじゃないか」
「そうこなくちゃね、幸四郎」
春菜と幸四郎は、自分たちがマヤ文明の、いや人類全体の継承者になることを決意した。
「きっと、そう言ってくれると思っていたよ」
博士も継承者が決まり、安堵した。
「では、手始めに…」
二人の長く辛い修行は始まった。
次回ついに最終章。驚愕の結末を迎える。